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社会貢献、ネット活用「身の丈」で (NK2012/8/29)


社会貢献「身の丈」で
ネット活用、小さな善意集める

 東日本大震災は社会貢献のあり方を改めて考える契機となった。ボランティアや非営利組織(NPO)での活動や、社会的起業に関心が高い若者たち。彼らはデジタル機器を活用して、問題意識を共有する仲間と「身の丈」の社会貢献に取り組み始めている。
佐々木さん(中)は被災地ボランティアへ向かう週末チャーターバスを企画する
佐々木さん(中)は被災地ボランティアへ向かう週末チャーターバスを企画する
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 8月の金曜日、夜11時半。東京・JR上野駅の中央改札口には宮城県へボランティアに向かう12人が集まった。横浜で集合した12人と合流し、1人8千円を出し合ってチャーターした中型バスで被災地へ向かう。車中2泊の強行軍だ。
ツイッター使う
 2011年7月から、東京と被災地をつなぐバス運行の旗振り役を務めるのが「とうきょう発ボラバス応援隊」の佐々木彩さん(31)だ。都内の会社に勤務する佐々木さんは昨年5月に初めて被災地を訪れ、高齢者がボランティアに汗を流す姿を見て刺激を受けた。一方で、支援はしたいが「平日は仕事があり、被災地へ向かう車や運転免許もない」自分と同じような若者が多いことを知った。小さな善意を集めればバスが借りられるはずだと考えた。
 活用したのがソーシャルメディア。ツイッターで被災地について発言する人や震災関連サイトをフォローして「一緒にバスを走らせませんか」と呼びかけた。仕事がありボランティアに専念はできないが、参加受け付けや名簿作りで協力してくれる人も現れた。これまでにバス12便、延べ483人ががれき処理や畑仕事を手伝う橋渡しをした。佐々木さんより年下の参加者が3分の1を占めた。
 ツイッターを使い始めたのは震災後。今ではフェイスブックで現地での活動を紹介し、参加者間の交流も意識する。「地元の方との交流の中で私も楽しみを見つけたい。月1回のペースで無理せず、でも長く続けたい」と笑う佐々木さんは「共感してくれる人がいるなら」9月末にも13回目のバスを運行する予定だ。
 内閣府の今年1月の調査では、20代のうち「社会のために役立ちたい」と回答した人は7割で、5年前に比べて1割増えた。NPOが多様な分野に活動を広げるにつれ、身近な社会問題への関心は高まっている。仕事選びや社会との関わり方の選択肢は様々。若い世代は従来の枠組みにとらわれずに「自分の役割」を探し始めている。
 ごみ拾いを楽しんで、街をきれいにしよう――。小嶌不二夫さん(25)は、ユニークなスマートフォンアプリ「PIRIKA(ピリカ)」を手掛けるベンチャー企業の社長だ。
 アプリをダウンロードした利用者は路上のごみを拾い、写真を撮って投稿拾った場所は自動で記録される。そんな善意の行動に共感した他の利用者は「ありがとう」「お疲れさま」とメッセージを送る。昨年5月のテスト版公開から5万5千個を超すごみが拾われ、海外50カ国以上に利用者が広がる。
「個人の思い」形に
 小嶌さんは京都大学大学院在学中に世界を旅して、ごみ問題が環境や治安に与える悪影響を痛感した。その時に「大きな風呂敷を広げても失敗する。まずは身近なポイ捨てごみから何ができるか」「ITを活用すれば取り組みが広がりやすいのでは」と考えた。無償協力するエンジニアも現れて、アプリ開発は軌道に乗った。今後は既存の環境保護団体と連携した清掃事業のほか、自治体へのごみ情報提供も視野に入れる。
 佐々木さんと小嶌さんに共通するのは「自分のやり方が万人に受け入れられるわけではない」という冷静な視点だ。社会問題の解決にはいくつもの選択肢があるが、自分が最適だと考えた方法を投げかけてみる。ごり押しはしない。必要ならば柔軟に変更する。ソーシャルメディアの普及で、そんな「問い掛け」が多くの人に届くようになった。
 「情報発信手段の多様化で『個人の思い』を形にしやすい環境が一層整ってきた。20代はネットの常時接続が普及した環境で育った、他者と『つながる』のが当然の世代。何らかの目的のためにネットを活用する30代以上とは発想の出発点が異なる」。社会学が専門の西田亮介立命館大学特別招聘(しょうへい)准教授(29)は分析する。
 これまで社会問題に取り組む団体といえば、政治的な色彩が強いケースもあった。「社会を良くしたい」。そんな個々の思いやアイデアから、軽やかな風が吹き始めている。
 安部健太郎、馬淵洋志が担当しました。
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