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外交に長期戦略を(NK2012/9/2)


中外時評戦略なき外交、限界に 「開かれた世界」維持へ動け 論説副委員長 実哲也

 1980年11月。米大統領選挙に勝利したばかりのレーガン氏に経済顧問たちがメモを送った。政権運営のあり方や心構えをこんこんと説いた内容だ。
 「その場しのぎの対応が基本目標の達成をしばしば困難にすることを認識せよ」「企業や個人は長期で計画を立てる。彼らが確信をもって動けるよう政策が一貫性を持つことが不可欠」「ある問題への対応策がほかの問題に悪影響を及ぼしかねないことに注意を怠るな」
 政権が、めざす目標からそれずに前進することがどれだけ大変か。しかし、それができなければ米国は再生できない。インフレと高失業率、国の威信の低下という当時の三重苦に直面する新大統領の成功を願う熱い思いがメモからは伝わってくる。
 メモは米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に今年5月、掲載された。80年当時を上回る経済危機にもかかわらず米国の政治は迷走したまま。掲載は今の政治指導者への大きな教訓になると判断してのことだろう。
 翻って日本はどうか。残念ながら、メモが警告する通り、政府は起きた問題に対する場当たり的な対応に追われ、軸が定まらない。消費税増税を除けば長期的な視点に立った判断や政策論議は不在である。
 米軍新型輸送機オスプレイの安全性は論争の種になっても、日米同盟をいかして日本の安全をどう守るかは十分議論されていない。香港の活動家らによる尖閣上陸のような事態が起きると「やはり日米同盟は重要」となるが一過性だ。日米関係は米国の親日派からも「漂流状態」と評される状況に陥っている。
 環太平洋経済連携協定(TPP)の議論も「米国のいいなりになるのか」といった感情論が幅をきかす。アジアの活力を取りこみ、日本にとって望ましい通商・投資ルールづくりをどう進めるのかという本質的な議論は後回しだ。
 領土問題などで中国や韓国との関係が緊張しても「強腰」か否かが問われるだけ。長期的な関係をどう構築するかは脇に追いやられている。政治紛争と経済を結びつければ日本にいずれ跳ね返ってくる恐れがあるのに日韓通貨スワップ協定の見直しが唐突に語られたりする。
 「世界情勢の検討抜きに原子力発電所の再稼働の是非が論じられているのは不可思議」と言うのは田中伸男・前国際エネルギー機関(IEA)事務局長。「イスラエルのイラン空爆で中東からの原油が途絶えたときの準備はどうかを政府関係者に聞いても、それはなかろうで済ませている」と懸念する。
 最大の問題は、安全保障も含めて日本が世界の中でどうやって生きていくのかという総合戦略が欠けていることにある。
 領土問題に限らず、自国本位主義の流れはリーマン・ショック以降強まりつつある。新興国中心に保護主義的な措置が増え資源獲得競争も激化している。畠山襄・元通商産業審議官は輸出規制を抑えるルールが不在な点を懸念する。穀物や資源の輸出を自国の都合で止める動きが強まる恐れがあり、そうなれば輸入に頼る日本は苦しくなる。
 しかし、経済再建に追われる米欧には開放的なルールづくりを主導する余裕は薄れている。そればかりか貿易相手国に不利になる通貨安をテコにした経済再生をもくろむ気配すら漂う。
 田中均・元外務審議官は「日本が受け身ですんだ時代は過ぎた。長期戦略を立てて能動的に動かないと将来は危うい」と語る。東アジア地域で市場統合、資源の共同開発や輸送の安全確保策などを主導することが日本の国益にとって大事だという。
 ただ絵を描けばすむわけではない。通商・資源から防衛、外交まで関係省庁の報告書を読めば立派なことは言っている。問題は縦割りで相互をどう関係づけるかが欠けていること。包括的な戦略でないと意味はない。
 「戦略策定と実行には情報、確信、大きな絵、力の4つが不可欠」と田中均氏。例えば日本の将来を左右する中国の国内情勢について正確な情報を得て評価できるか。目標実現には日米同盟から経済・技術力、文化まで日本の持つ力をいかすことが重要。そのためにはそうした力を維持することが必須になる。
 今月は与党・民主党と最大野党の自民党のトップを選ぶ選挙がある。国内しか通用しない内向きの議論はもう結構。世界とどう向き合って国益を実現していくのか。視点を高くした戦略構想を競い合ってもらいたい。
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