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観光振興には買い物を便利に(NK2012/10/28)


買い物をもっと便利に 三越伊勢丹HD会長 石塚邦雄氏

 ――なぜ、観光が日本の成長戦略の一つに挙げられているのでしょうか。
 「訪日外国人旅行者を1000万人と想定した上で、日本人の国内観光も活発になり、さらに国際会議の開催が増えるという前提で、国内の観光や消費の総額が30兆円に達するとの試算がある。観光業や小売業は労働集約的な産業のため雇用吸収力も高く日本経済を支える力になる
 「中国や韓国などアジアからの観光客の来日目的を聞くと上位に買い物(ショッピング)がくることが多い。旺盛な消費意欲にこたえなくてはいけない。百貨店での海外旅行者の買い物金額は約400億円で全体の1%にも満たない。フランスの著名百貨店では50%近いという。買い物の利便性を高める必要がある」
 ――なぜ、それほど低いのでしょうか。日本はそれほど買い物がしづらいのですか。
 「販売員と言葉が通じないという指摘はよく聞く。免税の対象商品の幅も狭く、化粧品は対象外だ。中国や韓国では日本の化粧品の人気が圧倒的に高く、免税対象となればもっと買っていただけるはずだ」
 「一般的に家電製品などの免税手続きも煩雑で、利用者に迷惑をかけてしまうこともある。小売店側もその処理に手間暇がかかっている。三越や伊勢丹の主力店舗ではコンピューターによる免税手続きのシステムを採用した。これだけ電子化が進んでいる時代にもかかわらず、国内では商品名や金額などを手書きで記入する伝票がいまだに存在する。手続き中にイライラが募った買い物客が返金を待たずに立ち去ることもある」
免税手続き簡素化必要
 ――消費税率が5%から8%、そして10%になったらどうなるのでしょうか。
 「5%の負担なら面倒な免税の手続きをしない外国人はたくさんいる。税率が引き上げられたらそうはいかないだろう。返金を求めて免税のカウンターは混乱する。こんなことで外国の人にも痛税感を与えてしまうことになる」
 「免税手続きは店舗(免税店)で行う『館主義』であり、その場で払い戻しを受ける。欧州などのように小売店で申請シートを受け取り、空港などで出国時に申請して帰国後に返金を受ける仕組みも必要ではないか」
 「今のやり方のままだと、日本に行きたくないという人が出てくる。免税の手続きだけで国際格差があり、せっかくの成長の機会を逃してしまう。海外から多くの観光客が来て小売業、観光産業が潤うことで税収増を実現すべきだろう。企業経営の観点からはコスト削減も欠かせないが、やはり売り上げを増やすことで成長シナリオを描くことが大切だ」
 ――日本に外国人観光客を呼び込む秘策はありますか。
 「地域を限定してエンターテインメント、劇場、コンベンションセンター、カジノ、ホテルなどを一カ所に集めた統合型リゾート(IR)と呼ぶ大型施設があってもいい。カジノというとマイナスのイメージがつきまとうが米国の例ではIRの施設でのカジノの売上高比率は数%程度にすぎない。IRなら家族がみんな楽しめるだろう」
 ――計画通りの訪日外国人旅行者数は実現可能でしょうか。
 「省庁連携と同時に、我々民間も海外からの誘客に真剣に取り組むためのオールジャパンの体制を築いていくべきだ。そのためにはもっと具体的な工程表を作り、フォローアップなどきめ細かな対応が必要だ。成長戦略にもかかわらず政府の事業仕分けの対象になるなど、ちぐはぐだ」
 「アジアの国の中では、日本より世界遺産が少ないマレーシアなどに観光大臣がいる。観光に携わる政府職員も1000人規模だ。世界に張り巡らせた拠点数も多い。みんなでもっと観光立国の本気度を示すべきだ」
 いしづか・くにお 72年東大法卒。三越入社。08年、伊勢丹との経営統合で発足した三越伊勢丹HD社長。12年から現職。63歳。
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