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尖閣で見えた中国の問題点(NK2012/10/8)


オピニオン

核心世界経済危機3を避けよ
日中が担う共同責任 客員コラムニスト 岡部直明

 尖閣諸島をめぐる日中間の緊張は、減速する世界経済の大きなリスクである。第2、第3の経済大国どうしの冷却が長引けば、リーマン・ショック、ユーロ危機に続く「世界経済危機3」を招きかねない。日中は偏狭なナショナリズム(国家主義)を超えて、悪循環を防ぐ共同責任を担っている。
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 野田佳彦内閣による「尖閣国有化」決定のさなかに中国・天津市で開いた世界経済フォーラムの夏季ダボス会議は、まるで腫れ物にさわるかのようにこの問題を避けた。会場の隅の方から聞こえる「なぜいまになって」という声が事態の深刻さを物語っていた。
 温家宝中国首相は講演で、この10年で6位から2位になった中国経済の成功物語を披露し、成長減速にも「中国には財政、金融政策を発動する余地がある」とあくまで強気だった。
 しかし、一部参加者との会見ではユーロの行方に危機感をのぞかせた。驚いたのは温首相がギリシャ情勢やドイツの国内政治事情だけでなく、オランダ総選挙まで注視していることだった。欧州勢の資産圧縮や対欧輸出の落ち込みなどユーロ危機が中国経済の足を引っ張っている。
 国際通貨基金(IMF)の朱民副専務理事は、このユーロ危機に、米国の財政の崖、新興国の成長減速、食料品価格の上昇を世界経済の4つのリスクとしたが、それにいま日中冷却を加えなければならないだろう。
 世界の成長センターで相互依存による「ウィン・ウィン」の関係を築いてきた日中が対立すれば、ともに敗者になる。それだけではすまない。生産・流通のネットワークが分断されれば、デファクト(事実上)の東アジア経済圏は機能不全に陥る。それは世界経済全体を巻き込む。
 日本経済にとって、日本の自動車が攻撃対象となったのは深刻だ。日本メーカーは世界最大の自動車市場で大幅減産を余儀なくされる。それは日本の産業全体に響く。日中関係に不透明感が漂うかぎり、日銀短観では高めに出た設備投資も下方修正は避けられない。中国からの観光客の落ち込みも大きい。日本は景気後退に直面する。
 一方で、中国は「持久戦」には強いという見方はあるが、世界経済は密接に絡みあう。破壊的な反日デモで世界中に「中国リスク」が織り込まれた。中国株価の下降がそれを示す。賃金コストの上昇で「世界の工場」の魅力は薄れており、中国離れのきっかけになる可能もある。東南アジア諸国連合(ASEAN)など「チャイナ・プラス・ワン」へ投資先を移転する動きは広がるだろう。
 中国経済の成功物語は日米欧からの投資に支えられてきただけに、投資リスクは成長にとって大きな阻害要因になるはずだ。
 深刻なのは、日中間に事態を打開する展望がみえないことだ。尖閣問題は日米欧先進国から中国など新興国への歴史的なパワーシフトのなかで起きた。中国が強硬なのは、海洋進出と資源戦略がからむ「核心的利益」と考えるからだろう。
 しかも、胡錦濤体制から習近平体制への政権移行期である。親日派の現政権が尖閣国有化でメンツをつぶされたなら、次期政権は強腰にならざるをえない。
 やっかいなのは、中国の強硬姿勢の背景に、高度成長から中成長への成長屈折による矛盾が潜むことだ。反日デモが一部で暴徒化したのは所得格差など国民の不満がある。ローマは1日にして成らずどころか中国では「1週間にローマが2つできる」という急速な都市化が進行中だ。そこにひずみはつきまとう。ネット社会化が不満を増幅する。
 もちろん、日本はどんな政権になっても、尖閣諸島の領有を譲れない。領土・領海の保全は国の基盤であることに変わりはない。
 問題は、こうして日中が互いにナショナリズムを背負いながら、対峙し続けることである。偏狭なナショナリズムの応酬は事態を悪化させるばかりだ。中国内にも「次期政権は資本市場改革などに取り組むべきだが、ナショナリズムは改革を損なう」(李稻葵中国世界経済研究センター所長)という指摘もある。
 こんな時こそ、日本は地球視野で戦略的外交を展開しなければならない。日米同盟の強化はその大前提である。環太平洋経済連携協定(TPP)と日中韓自由貿易協定(FTA)をともに進め、それを結合させる。尖閣諸島周辺での石油・天然ガスの共同開発など日中間で環境・エネルギー協力に取り組む必要もある。
 重要なのは、重層的な人的交流である。岡崎嘉平太は日中覚書貿易事務所代表として周恩来との協議を重ね国交回復への地ならしに尽力した。国交回復後は青年交流による「人の石垣」を唱えた。その信念に貫かれた話しぶりを思い出す。欧州統合の父、ジャン・モネは「国と国とを結びつけるのではなく、人と人を結びつける」と述べている。
 今週、東京で開くIMF・世界銀行総会は、世界経済危機をどう打開するかが焦点になる。日中は危機打開に「完全な貢献が期待される」(ラガルドIMF専務理事)。その日中が新たな危機の芽になるのを世界はどうみるか。日中は厳しい視線にさらされるだろう。日中が担う国際責任はかつてないほど重い。
関連キーワード
野田佳彦、温家宝、岡崎嘉平太、胡錦濤、習近平、ナショナリズム

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