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多言語表示は、日・英・中・韓・タイで。井上史雄。日経2015/08/16

多言語化、五輪で後れ取るな 。井上史雄。日経2015/08/16


 東京五輪の開催が決まって以降、多言語に関する報道が多くなった。東京都など関連機関が言語表示についての協議会を立ち上げたが、日英+ピクトグラム(絵文字)を基本にして必要に応じて他の言語も増やすそうだ。2002年サッカーワールドカップの際に普及した日英中韓の多言語化に比べると後退である。

 中韓を重視しないのは、世の動きに反する。実際の現場では様々な場面で中韓が加わり続けている。ほかに加えるとしたらタイ語だろう。訪日外客数の政府統計を見るまでもない。秋葉原などでは、店頭の客数や売り上げを見て、日英中韓に加えてタイ語を使いはじめた。

 表示の多言語化は経済発展と比例する。日英だけにすると、日本経済が下向きで、今や「日の沈む国」で、多言語化する余裕もない貧乏国という印象を与える。

 世界の多言語化の波に乗るなら、アルファベットで書かれる言語を増やすといい。クーベルタン男爵に敬意を表してフランス語を加えるのも一案である。かつての国際語だったし、イタリア語・スペイン語・ポルトガル語と似ているので、多くの欧米人に役立つ。フランス語には洗練された印象があって、ファッション店やレストラン・お菓子屋の広告でも使われる。五輪語の五言語は語呂がいい。

 日英+ピクトグラムの方針が変わらないとしたら、逆手にとればいい。一般の企業にとってはビジネスチャンスだ。公共表示が日英のなかで中韓、タイ語やフランス語を使えば、目立って、効果的である。歓迎のあいさつには、集客効果があるし、多言語メニューを示せば、実質的コミュニケーションに役立つ。

 函館市企画部の実証実験が面白かった。5カ国語訳(ロシア語を含む)のお勧めメニューのカードを店舗で使ってもらい、効果を調査したのだ。外国人観光客に便利で、好評だったそうである。ちなみに福岡では以前から韓国語対応が進んでいた。現場では地域の需要に合わせている。阪神淡路と東日本の大震災の際には、外国人向けに研究者によってさまざまな多言語情報が提供された。オリンピックについても、研究者からの積極的発信が有効だろう。

(言語学者)

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