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東南アが渇望する日本

東南アが渇望する日本
秋田浩之 2017/9/15nkを抜粋編集

 安倍晋三首相にとりアジアでいちばん気が合う指導者は、インドのモディ首相だ。モディ氏が地方指導者だった約10年前から、同じ保守政治家として交友を重ねてきた。14日の会談も10回目だった。

 2人が最も心を砕いている問題が、強大になる中国にどう向き合っていくかだ。前日の夕食会も交え、かなり突っ込んだやり取りが交わされたに違いない。なかでも焦点になったとみられるのが、中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」への対応だ。

 一帯一路はアジアから欧州にまたがるインフラ整備を中国が主導し、その沿線の開発まで手掛ける壮大な構想だ。受け身に回る日本とインドの視線は複雑だ。14日の共同声明では名指しこそしなかったが、世界のインフラ整備は透明性をもって進めるべきだと呼びかけ、中国をけん制した。


  日本はもっと、アジアで独自の役割を発揮する余地がある。そんな日本を渇望する声が、東南アジアでは強まっているからだ。

 8月27~28日、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国のジャーナリストが参加する「日本ASEANメディアフォーラム」(国際交流基金主催)に参加した。経済や安保の議論で深く印象に残ったのが、日本の役割を求める意見が何度も出たことだ。

 中国からは洪水のように援助やインフラ投資が流れ込んでくる。このままでは、東南アジアはいや応なく、中国の影響圏に入ってしまう。そうならないよう、日本がもっと出てきて、中国以外の選択肢を与えてほしい――。参加者らの声を要約すれば、こうなる。

 私は以前、米国が内向きになれば、アジアは中国主導の「紅(あか)い秩序」に染まりかねない、と本欄に書いた。当の東南アジアもそんな事態にはおちいりたくない、と切実に考えているのだ。

 一帯一路構想にも期待と懸念が交錯する。同フォーラムの出席者によると、東南アジアはこぞって支持を唱えたが、内心はみんな不安らしい。なぜなら、スリランカの「失敗」を見ているからだ。

 スリランカは同構想に乗って、中国から巨額の資金を借り、港湾インフラを整えようとした。ところが高金利のため、返済に窮した。そして昨年末、港を所管する国営企業の株式80%を、中国側に99年間、貸与する契約に原則合意せざるを得なくなってしまった。

 ASEAN各国は中国の援助や投資を受け入れながらも、スリランカのようにがんじがらめにされないか、怖いのだという。

 それは南シナ海の領有権争いを事実上、棚上げし、中国からの援助を取り込んでいるフィリピンのドゥテルテ大統領も同じだ。

 「もし、日中が戦争になったら、わが国は日本を支持する」。外交筋によると、ドゥテルテ氏は日本要人に会った際、こうささやいた。社交辞令だとしても、日本と緊密な関係を保ち、中国とバランスをとりたい本音がうかがえる。

 では、彼らは日本に何を望んでいるのか。物量で中国に太刀打ちすることはできない。日本の政府開発援助(ODA)は今年度、予算ベースで約4300億円。中国は向こう3年間、アフリカ向けだけでこの10倍以上の援助を注ぐ計画だとされる。

 そのうえで、ASEANの当局者や識者らに日本への期待をたずねると、主に2つの答えが返ってくる。ひとつは要所となる交通網や港湾に、質の高いインフラを整備することだ。「物量で中国に張り合えないのは分かっている。それでも日本からインフラ投資があれば、中国への依存度を和らげられる」(ASEANの外交官)

 もう一つの期待は、日本が他国と一緒に多国間の経済協力構想を描き、進めるということだ。本来は環太平洋経済連携協定(TPP)がその土台になるはずだった。トランプ米政権の離脱で目算は狂ったが、米抜きの「TPP11」を日本が主導し始めたことは、大きな注目を集めている。

 中国の経済圏に覆われながら、アジアの国々は「中国以外」の選択肢も求めている。それに日本がどこまで応えられるかによって、アジアの勢力図は塗り替わる。

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