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タイのインラック前首相国外へ。タイ政治は?

インラック前首相逃亡、タイ政治の課題は
2017/9/5

 タイのインラック前首相が裁判を逃れ、国外逃亡したとみられる事態が波紋を広げている。タクシン元首相派の象徴だった前首相の退場を受け、有力政治勢力はなにを課題と捉えているか。タクシン派政治団体、反独裁民主統一戦線(UDD)のティーダ顧問と、反タクシン派の中の最大政党、民主党のアピシット党首(元首相)に話を聞いた。

(聞き手はバンコク=小谷洋司、小野由香子)

タイ民主党党首(元首相) アピシット氏 タクシン派は汚職助長
2017/9/5
【※】民主党:反タクシン派の最大政党

 インラック氏の逃亡はこの国の富裕層や特権階級は法の裁きを受けないで済む選択肢があることを印象付けた。彼女の逃亡に安堵している人もいるだろう。彼女への判決がどんな内容であろうと、何らかの不満が噴出し、トラブルが起きるとの見方があったからだ。

 タクシン派のタイ貢献党へのタクシン一家の影響力がどう変わるか注視している。タクシン氏自身も汚職罪を逃れるため逃亡したが、国外から影響力を行使している。

 総選挙は予定通り来年後半に行われるだろう。タイ貢献党の対立政党として、我々民主党は、経済格差の解消や汚職撲滅のための構造改革という政治目標を訴え続ける。

 軍事政権下では政治活動が禁止され、私はこの3年間、個人として全国を行脚し国民の声を聞いてきた。タイ貢献党が強い北部や東北部でも徐々に私の話に耳を傾ける人が増えている。

 我々とタクシン派は汚職への考え方が全く異なる。タクシン派の政策は汚職を助長しかねない。先月、インラック政権の元閣僚が在任時の汚職で実刑判決を受けた。

 プラユット暫定首相をトップとした軍主体の政党が誕生する可能性もある。だが、今のままの官僚的な政策では我々と連立を組むのは難しい。

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UDD顧問 ティーダ氏 軍事政権、法の支配なし
2017/9/5
【※】タクシン派

 インラック前首相の行動には悲しみも怒りも感じない。彼女を実業界から政界に引き込んだ兄のタクシン元首相は、一日たりとも前首相を収監させたくなかったのだろう。逃亡は降伏とは違う。タクシン氏もインラック氏も政治支配層との闘争をあきらめず、2人の人気も変わらない。

 彼らはタイ政治を変えた。投票で政策や首相、未来の生活を選ぶとの意識を目覚めさせた。金満政治家との批判もあるが、他に代わるリーダーはいない。我々は民主主義、法の支配、非暴力などを掲げて闘争を続ける。

 軍事政権を支える既得権益層の狙いはタクシン派の封じ込めだ。タクシン氏、インラック氏に加え元閣僚、政党、支援者などをあらゆる手段で排除しようとしている。

 選挙になれば毎回タクシン派が勝つ。だから既得権益層はクーデター後に憲法や法律を変え、タクシン派を崩しにかかる。タクシン派が劣勢になるまで総選挙をやらない可能性もある。


 既得権層の強硬派は総選挙後も軍政のプラユット暫定首相の続投を願っている。プラユット氏を推す親軍政の新政党を立ち上げようとの動きもある。(軍主導の)独裁政権下に法の支配はない。独裁が長びくと、多くの人々が我々の活動に賛同するだろう。

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池上さん、なぜタイのインラック前首相は国外に逃亡しているの?
Q なぜタイのインラック前首相は国外に逃亡しているの?
 タイのインラック前首相が、在任中に国に巨額の損失を与えたということで罪に問われているそうですが、タイでは政策の責任を首相一人が、自ら負わなければならないのでしょうか? なぜインラック前首相は罪に問われているのでしょうか。(30代・男・会社員)

A はっきり言えば、政治的な裁判です。

「国に巨額の損失を与えた」というのは、農民への支援策を面白く思わない軍事政権がインラック前首相を刑務所に閉じ込め、インラック派の力を削ごうとしている口実です。
 2011年のタイ総選挙で、インラック氏は、政府が農家からコメを買い上げるという公約を掲げ、農民層からの支持を得て、勝利。首相に就任しました。


現在は国外に逃亡中のインラック首相 ©getty

 首相になると、さっそく公約を実施に移します。農家から市価の5割も高い値段でコメを買い上げました。農民たちは大喜びです。
 でも、こんなことをすれば、政府の財政は赤字になります。ポピュリズム政治は莫大な財政赤字を生み出しました。
 2014年、反インラック派の軍部がクーデターを起こし、軍事政権を樹立。コメ買い取り政策を廃止しました。
 さらにインラック前首相を職務怠慢の罪で訴えました。コメの買い取り政策を続けていれば財政赤字が増えることは明らかだったのに、それを中止しなかったことが職務怠慢に該当するというのです。
 これを職務怠慢だというなら、かつて日本政府も農民からコメを高く買い上げ、消費者に安く売り渡すという政策で巨額の赤字を築きあげました。だからといって、当時の総理大臣が訴追されることはありませんでした。その是非はともかく、政策としてはありうることだからです。
 インラック氏の政策も、政策としてはありうること。でも、反インラック派は、なんとしてもインラック氏を訴追しようとしたのですね。
 インラック氏が問われた罪は、有罪になれば最高で禁固10年という厳しいもの。それを恐れて逃亡したと見られています。
 インラック氏が向かった先は中東のドバイ。ということは、正規の手続きを踏んで出国しなければ航空機に乗れません。軍事政権はインラック氏の動向を把握していますから、こっそり出国することなど不可能です。そこで、軍事政権が意図してインラック氏を逃がしたのではないかという疑惑が持ち上がっています。インラック氏を追い出せば、国内のゴタゴタは収まるだろうし、インラック氏が逃亡すればインラック派はインラック氏に失望して活動が下火になるでしょう。軍事政権は、それを狙ったのではないか、というわけです。
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インラック:タイ初の女性首相


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