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市場原理主義社会からシットリ社会へ

  1. 鈴木大拙は、「西欧文化にはものごとを二分してしまう傾向があり、世界文化の形成におもしろからぬ影響をおよぼす。それに反して東洋の思想には対立を超える英知がある」と述べましたが、彼の望んだ時代はかえって遠のいているのが現状です。
  2. ア メリカが主導するグローバル資本主義思想の淵源は、遠くユダヤ・キリスト教文明、西欧文明に求められ、フランス革命のリベラル思想やニューディール政策に 対抗するところからはじまりました。この思想はエドモンド・バーグの影響を受け、今やアメリカ政治の中枢を占め、世界を覆いつくそうとしています。
  3. 「選択と集中」「市場主義」「競争社会」「規制緩和」「構造改革」「小さい政府」「地方分権」「自己責任」などの標語が喧伝(けんでん)され、深く進行し ているのもこの思想と連動しています。デジタルデバイドに象徴される「選択と集中」は、少数の国、少数の都市、少数の企業、少数の人を選別し、他を切り捨 てることであり、「選別と切り捨て」の別名です。
  4. 今や生産性の高いところと低いところの格差はひろがる一方です。世界はギスギス社会となり、無力感、閉塞感が漂い、明日への希望が見えません。人々の身や心は痛みっぱなしです。
  5. しかし、21世紀の基調は「国際協調」です。寺島実朗氏のいうホッブスのアメリカ(力の論理)は、いずれカントの欧州(国際協調)に席をゆずることになり ます。資本主義観にしても株主至上主義から従業員、顧客、地域社会、地球環境をバランスよく配慮したものになるはずです。
  6. 日本においても、蕉風の「不易流行」の精神に立ち戻る必要があります。「流行」は時代とともにどんどん変化していくものですが、「不易」はグローバリズム の風潮の中にあっても変えてはならない終身雇用などの日本社会の土台です。闇雲なギスギスした市場原理主義を相対化し、中間層をさらに厚くし、人間が主人 公であるようなおもいやりのあるシットリ社会をめざしたいものです。

(「編集後記」『東京国際大学論叢』第62号の拙稿を改稿)

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