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「中東革命」混沌 独裁と自由、一進一退 (NK2012/4/30)


「中東革命」混沌 独裁と自由、一進一退 
世界の不安定要素に

2011/4/30 4:00
日本経済新聞 朝刊
1359文字
 年初にチュニジアで始まった中東での政変は、北アフリカからアラビア半島まで広い地域に拡大した。エジプトのように民衆デモが指導者を辞任に追い込んだ国もあるが、リビアやシリアでは抗議が流血の惨事に転じ、事態収拾が遅れている。治安の維持などの名目の下に封じ込められてきた自由の獲得を求める歴史的な「中東革命」は、政情混迷や国際関係の不安定化を生みつつある。
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 中東では1月にチュニジア、2月にエジプトでそれぞれ指導者が相次いで辞任に追い込まれたが、リビアやシリアでは、デモ隊が一気に政権を打倒するには至らず、事態は一進一退の状態だ。
リビアは内戦に
 リビアでは、民主化デモが当初予想しない激しい内戦に転じた。民主化を求める民衆に指導者のカダフィ大佐の政権軍が激しい銃撃を浴びせると、反体制派も急きょ集めた武器と、乗用車に火器を取り付けた「即席戦闘車両」で対抗。カダフィ政権側は、仏英米などによる介入を受けて一時は崩壊も時間の問題といわれたが、外国人の雇い兵も動員して粘り腰を見せている。
 各国指導者がしぶとく延命する背景には、4月中旬にムバラク氏が拘束されたのを見て「デモを力ずくでも鎮めないと生き残れない」と背水の陣を敷いた面もある。
 さらに恐怖心をあおる方法で反体制派の闘争心をそいでいる。リビアのカダフィ大佐は「ベート、ベート。ザンガ、ザンガ」と呪文のような言葉を部下に対して繰り返す。これはアラビア語で「家から家、通りから通り」の意味。秘密警察が反体制派の個人情報を洗い出し、自宅や友人宅を相次ぎ急襲している。
 シリアでも、欧米の非難にもかかわらずアサド政権の狙撃兵がビルの上からデモ隊を実弾射撃。政権維持への強い執着を示している。
 アラブの指導者は長年、独裁体制を維持するため国民の関心を国の外に向けさせてきた。「イスラエルの脅威」「米国の覇権」を国営メディアで声高に強調。シリアやエジプトでは「外敵やテロ集団からつけ込まれないため」と称して非常事態法の継続を正当化していた。
 ただ、シリアでは1973年以来イスラエルと大きな戦争は起きていない。エジプトでも2000年代に入ってから深刻なテロはとだえており、外敵の脅威を訴えて国内を固める手法は通用しなくなりつつあった。
 一方で指導者らは同族でポストや利権を分け合う傾向を強めていた。政治の実体が独裁指導者の「延命装置」であることに気付いた国民の間で疑念が怒りに変わり、大規模デモとして噴出した。
シリアにも波及
 今回デモが連鎖的に起きた国の多くはアラブ圏に属する。アラブ人はアラビア語という同じ言語を話し、文化や習慣が共通する。最近、エジプトに続いてシリアでも、イスラムやキリスト教といった宗教を超えて「民主化」という価値観を軸に連帯しようとの呼びかけがフェイスブック上で始まった。
 アラブという同一民族の特質が、デジタルメディアを介して民主化運動の連鎖を生み、中東全体でデモを勢いづけた側面がある。
 イエメンでは大統領が1カ月以内の退陣を求めた調停案に同意するなど事態収拾の動きも出てきた。ただ地域全体で見ると、独裁以外の政治スタイルへの転換が難しい指導者と、民主化の衝動に駆られた民衆との衝突は当面続くとみられ、域外へも様々な影響を与えそうだ。
(ドバイ=中西俊裕)
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