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米CSIS所長、「原発ゼロ再考を」(NK2012/9/13)


「日本、原発ゼロ再考を」 米CSIS所長が寄稿
核不拡散へ貢献責務

 米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・ハムレ所長は12日、日本政府が「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」ことを目指すエネルギー戦略策定に動いていることを受けて日本経済新聞に寄稿し、戦略の再考を促した。核拡散防止の観点で同戦略が国際社会への責任放棄になるとも指摘。日本側は長島昭久首相補佐官らを派遣して米政府に説明する考えだが、米国の懸念の強さを浮き彫りにした。寄稿の主な内容は次の通り。
ジョン・ハムレ氏
ジョン・ハムレ氏
 先週、野田佳彦首相は日本のエネルギー源として原子力を放棄したい考えを示した。それが真摯な願望であることに疑いの余地はない。しかし今後、何年にもわたって日本は原子力エネルギーのインフラを維持しなければならない、という(逆の)結論に彼は達すると私は信じている。
自然エネは不足
 歴史的に日本はその近代的な経済のエネルギー基盤を欠いてきた。このため過去、歴代の日本の指導者たちは原子力発電所のネットワークを築き上げ、発展する経済に必要な電力を担ってきた。原子力は日本の驚異的な経済成長にとって、必要欠くべからざる構成要素だったのである。
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 残念なことに、日本政府は商業用の原子力発電を適切に管理する構造を構築してこなかった。日本の(原子力)規制に関する権限基盤は脆弱で、原子力産業に安全基準を課すこともできなかった
 だからこそ、尋常でない自然災害が日本を襲った後、原子力の惨劇が生まれてしまった。多くの日本国民は今なお、日本が原子力規制に関する強力な体制を欠いたままであり、それゆえに原子力をこのまま放棄すべきだと感じている。
 太陽光エネルギーは魅力的だが、日照時間は1日のうちの半分にすぎない。風力発電も希望を持たせる。だが地球上で最も風の強い場所ですら、1日のうちの40%しか電力を発生させるに足る風力しか得られない。
 日本は1日、1年を通じて100%頼れるエネルギーを必要としている。日本のようにエネルギーに乏しい国家にとって、パワフルでモダンな社会を維持するために原子力は不可欠なのだ。
中国をにらむ
 国家安全保障上の観点からも日本は「原子力国家」であり続ける必要がある。今後30年間で、中国は75から125基の原子力発電所を建設する。日本はこれまで核不拡散問題において、世界のリーダーであり続けてきた。日本が原発を放棄し、中国が世界最大の原子力国家になったら、日本は核不拡散に関する世界最高峰の技術基準を要求する能力も失ってしまう。
 東京電力福島第1原子力発電所での災難は日本政府にとって屈辱的なものだった。だからといって、これから進むべき道が原子力の放棄になるわけではない。世界で最高の原発利用者として、日本は中国など他の国に対して、同じ(レベルの)対応を求めていくことが重要だ。
 熟慮を重ねた考察に基づけば、日本が原子力国家であり続けなければならないことはわかるはずだ。それは国家として日本が担う責務でもある。今、取り組まなければならない課題は、強固な規制権限の基盤をつくり、安全な操業を確かなものとし、かつ日本国民の信頼を取り戻すことだ。それはまだ、可能なはずだ。
(原文=英文はhttp//e.nikkei.comに掲載)
 ジョン・ハムレ(John Hamre)氏 1950年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大博士。クリントン政権で国防次官、国防副長官。2000年から現職。
関連キーワード
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解説反原発機運、米に波及警戒

 オバマ米政権はこれまで、野田政権を「2人の前任者と違い、現実路線を歩んでいる」(元ホワイトハウス高官)と評価していた。重視したのは日米同盟体制を堅持する姿勢に加え(1)消費税増税(2)環太平洋経済連携協定(TPP)加盟(3)原発維持――の3点だった。
 だが消費税増税は何とかクリアしたものの、TPPは足踏み状態。沖縄・普天間問題だけでなく、従軍慰安婦問題などで冷え込む日韓関係も憂慮する声が米政府内で聞かれる中で「原発ゼロ」を掲げれば従来の評価が一変しかねない。国際社会の評価に悪影響を及ぼすとまで警鐘を鳴らす知日派も多い。
 米国はなぜ、日本の原子力政策にここまで強い関心を寄せるのか。
 1つはオバマ大統領が目指す「核なき世界」との関係だ。民生利用の名を借りた核技術拡散を防ぐための監視・管理体制の強化はオバマ氏の重要な政治課題。米仏と並ぶ原子力大国日本が「責任ある大国」として原子力陣営にとどまり、中国などの原子力政策ににらみをきかせることへの期待は強い。
 米原子力政策とも深く絡む。今年2月、米政府は34年ぶりの原発建設・運転計画を承認。そこには東芝傘下の米原子力大手ウエスチングハウスの軽水炉が採用され、日本の技術が米原発を支える構図がある。
 米国では地球温暖化対策の一環として原子力を見直す動きもあるが、日本が「原発ゼロ」を宣言すれば「原子力ルネサンス」の機運に水を差す恐れもある。ハムレ氏が原発維持を「日本の責務」と断言した背景には、こうした問題意識と警戒感が込められている。
(編集委員 春原剛)