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残したい山の暮らしの知恵  川魚、いろりの煙で保存。宮崎県椎葉(しいば)村

【8-3】(宮崎日日新聞社、文と写真・吉元まゆみ)引用編集

 川魚をいぶして保存する方法を伝える尾前秀久さん


 周囲を険しい山々に囲まれ、秘境とも呼ばれる宮崎県椎葉(しいば)村。
ここには奥地だからこそ残ってきた独特の文化が数多くある。
保存食もその一つ。
雪の積もる冬を乗り切るため、村人は春から夏にかけて山や川で得た食料を干したり、塩漬けにしたりして大切に保存してきた。

 熊本県境に近い尾前地区に暮らす尾前秀久(おまえ・ひでひさ)さん(57)は、その文化を受け継ぐ一人。
夏場に耳川源流で捕れたヤマメやアユをいぶし、冬場の食料にしている。
作り方は至ってシンプル。
内臓を取り除いた川魚を竹串で刺していろりであぶり、棒状に編んでいろりの上につるした稲わらに次々と刺していく。

 あとはいろりに火をくべ続ければ自然といぶされて長期間保存でき、好きなときにあぶれば、いつでも食べることができるというわけだ。
尾前さんは「子どものころは水族館みたいに魚がおった。
冷蔵庫がなかったから、夏場にたくさん捕ってこうして冬場まで持たせたとよ」と説明する。

 食べ方はしょうゆや油みそを付け、2~3分あぶるだけ。
尾前さんによると、いぶしたにおいが鼻に心地よく、地元の言葉では「かばしい(香ばしい)」と表現するそうだ。
また、これでだしを取ったみそ汁は「いり子だしのものより、格段においしい」と言う。

 今では家庭からいろりが消え、いぶして川魚を保存する家はずいぶん減った。
ほかに残るのは、こうじに漬け込む「ウルカ」という方法ぐらいだ。
公民館長でもある尾前さんは「子どもたちにも昔の人の知恵を身につけさせたい」と、体験活動を通じて次世代へと伝える構想を温めている。

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