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ミレニアル世代は民泊好き 次の訪日客、規制で逃すな。 東洋大・矢ケ崎紀子

ミレニアル世代は民泊好き 次の訪日客、規制で逃すな
東洋大・矢ケ崎紀子

2017/12/21  nikkei style を抜粋編集

<まとめ>

  • 民泊は世界の若い人々が支持しています。
  • 人と触れ合いたい、生活に入り込みたいという人は、ホテルや旅館では駄目なんです。
  • 将来の観光のターゲットとなる若い人々を、もっと大事にしなければなりません。
  • 桑原政則の感想
  • 民泊関連用語


 一般の住宅に旅行者を有償で泊める「民泊」について、全国の自治体が独自のルール作りを進めている。京都市や北海道のように家主が同居するタイプを認めるところもあれば、東京都大田区や新宿区、世田谷区のように家主の同居か不在かを問わず厳しく制限するところもある。インバウンド(訪日外国人)の需要が盛り上がる2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、自治体は民泊にどう向き合うべきか。京都市のルール作りに有識者委員会のメンバーとして携わった矢ケ崎紀子・東洋大准教授に聞いた。


■「京都ファンを作る」というビジョンから出発

インタビューに答える矢ケ崎紀子・東洋大准教授
 ――京都市がまとめた民泊のルール案をどう評価しますか。

 「今できる最善の判断をしたと考えています。日本人は欧米やオーストラリアと違って、自宅を貸す、それもバカンスのために互いの家を交換するといった経験はほとんどありません。しかもテロが頻発する最近の国際情勢もあって、知らないものに対する不安が先に立っています。そうしたなかで京都市は、これはいい、これは駄目という区分が非常にロジカルにできたと思います」

 ――何が議論のベースになったのですか。

 「京都市として、どういう観光地でありたいかというビジョンです。京都市は知名度があって、いろいろな人を引きつけることができます。ただ受け入れのキャパシティーはすでにいっぱいなので、いいお客さんを引きつけたい。いいお客さんとは何か。お金持ちだけではありません。京都を愛してほしい、ファンになってほしい。そうすればまた来てくれるし、京都で作られる工芸品、それもいいものを買ってもらえます」

 ――インバウンド拡大といっても単純な観光客数ではないということですね。それが、どう民泊とつながるのでしょうか。

 「京都に来たからには、京都について深く知ってほしい。そのためには京都文化をよく分かっている家主さんから、生活のなかで教えてもらうのがいい。しっかりした家主さんの紹介なら隣近所にもきっと受け入れられて交流できるはず。だから住宅地であっても、家主が同居している民泊は評価すべきだと考えました」

 「もう一つ、京町家という空間で文化を伝えていく方法もあります。どんどん減っていっている京町家を何とかして残したい。残れば観光資源になる。だから、京町家による民泊はたとえ家主が同居していなくても認めるべきだと考えました。京町家を残すお手伝いを(宿泊料を維持費に充てる形で)観光客にしてもらうという意味もあります」


 ――一方で家主不在の民泊は住宅地で1、2月に営業を限定する方針です。国の定める営業上限180日間の3分の1で、かなり厳しい印象を受けます。

 「人気の高い清水寺や花見小路などは観光客であふれかえって危険な状態です。バスの停留所も本当に人が(道路に)落ちそうなくらいです。そういう状況で民泊(の宿泊客)を上乗せするのはまずい。だから家主不在型は観光の閑散期の1、2月に絞りました。今後、京都市内で観光客が分散していけば、不在型の民泊をどうするか改めて考えればいい。実際、京都市のルールは3年後に見直すことにしています」

 ――多くの自治体は住宅地の民泊を厳しく規制する一方、ホテルなど旅館業の営業が認められている地域では民泊についても特段の制限をしない方針です。しかし京都市は住宅地以外で、問題が起きたときに10分以内で駆けつけなければならないといったルールを設けようとしています。

 「京都市は土地の用途が入り組んでいて、ここから先は住居地域というようにビシッと分かれていません。だから住居地域以外でも何らかのルールが必要ではないか。特に問題なのは家主が市外に住んでいるケースと考え、駆けつけ義務を課すことにしました。これは利用者の保護にもつながります。トラブルがあっても(家主の)電話が通じないとか、メールしか連絡手段がなくて我慢しなければならないといったことが実際に起きているからです」

■インバウンドで重要なのはオリパラ後

 ――京都市のルール作りに携わった経験を踏まえて、ほかの自治体へのアドバイスはありますか。

 「民泊だけみて判断しようとすると、すごく狭い議論になってしまいます。まず宿泊という機能を自分の町でどう位置づけるかというビジョンが必要です。民泊にもいろいろあって、一律に駄目と決めつけてしまうと、本当に受け入れたいと思っていたお客さんまで逃してしまいます。もっとも、うちに観光は要らないと決めた地域には民泊は必要ないのかもしれませんが」

次の観光のターゲットであるミレニアル世代をどうひき付けるかが重要と説く矢ケ崎氏

【※】ミレニアル世代
ミレニアル世代:1980年代以降に生まれ2000年代に社会人になる世代。millennial「千年紀の」

 ――観光のためでなく、住民の国際交流を深める手段という位置づけはあり得ませんか。

 「あるでしょうね。その理屈をビジョンからきちっと通していけるなら、違った世界が見えるかもしれません。民泊の位置づけも変わって、まわりの住民の理解も得やすいでしょう」

 ――ほかにはどんなアドバイスがありますか。

 「ミレニアル世代の意見をきちんと聞くべきです。民泊は世界のミレニアル世代が支持しています。人と触れ合いたい、生活に入り込みたいという人は、ホテルや旅館では駄目なんです。自治体は彼らの考えが分からないのであれば、代弁できる人を有識者委員会などに加えるべきです。将来の観光のターゲットとなるミレニアル世代を、もっと大事にしなければなりません

 「私は50歳代前半ですが、(准教授を務めている東洋大・国際観光学部の)学生たちと話していると、世代間で考え方がまったく違うことに気づかされます。金沢に行くにも民泊を利用したという学生がたくさんいるのです。帰ってきてからどうだったか聞くと、『家主さんがいなくて部屋だけだったので、ちょっとつまらなかった。まあ安かったからいいけど』なんて言う。好奇心が旺盛な彼らと民泊は、とても相性がいいと思います」

 ――東京都区部の多くは民泊を厳しく制限しようとしています。これで20年の東京五輪・パラリンピックを迎えられますか。

 「五輪・パラリンピックはもちろん重要ですが、その後がもっと重要です。実は12年のロンドン大会では、外国人旅行者の数が11年の同じ時期より減りました。ホテルが高い、飛行機の座席がとれないといった理由で回避した人がたくさんいたのです。一方で企業の接待需要でロンドンを訪れた人は多かったはずで、大会の終了後は(そんな異常な状態を)早く一般の観光客に戻さなければなりません。そこで英国政府は観光プロモーションの予算を五輪の前と中と後で2対2対6に配分し、五輪後に『Memories are GREAT』(思い出は素晴らしい)というキャンペーンを集中的に打ちました。『宿も飛行機もとれるようになったよ、だから五輪の記憶が残っている英国においで』というわけです」

 「日本の民泊はまだ入り口にさしかかったばかりです。一度ルールを作って終わりではなく、何が起きるのかを見たうえで、見直すべきところは見直していく。それが3つ目のアドバイスです。そもそもマーケットの動きが速い観光において、絶対の解はありません。東京五輪・パラリンピックの後、どうすればミレニアル世代に日本に来てもらえるか。そう戦略的に考えれば、新しい道が見つかるのではないでしょうか」

(聞き手はオリパラ編集長 高橋圭介)

【※】
矢ケ崎紀子
 1987年国際基督教大教養卒、住友銀行(現三井住友銀行)入行。2006年九大院法学修士。日本総合研究所や観光庁(観光経済担当参事官)、首都大学東京都市環境学部特任准教授などを経て、14年より東洋大学国際観光学部国際観光学科(17年4月に国際地域学部国際観光学科から改組)准教授。専門分野は、観光政策論および観光行政論。「京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議」の委員として同市の民泊ルール作りに携わった。


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家主同居は○、空き家は× 民泊規制で京都市が新機軸 
緊急時の「駆け付け」を義務付け、硬軟両様で観光振興めざす
2017/12/8 日本経済新聞 朝刊

京町家についても歴史的遺産を生かす観点から民泊の制限を設けない

(京都市上京区)

 一般の住宅に旅行者を泊める民泊について、京都市は条例案の骨子をまとめた。居住者がいない空き家は住居専用地域において1~2月に営業を限定するなど厳しく規制する。一方、家主が居住するタイプと歴史的な遺産である京町家には特別な制限を設けない。条例作りで先行する東京都区部の多くは「空き家」と「家主同居」を一律に規制しようとしており、京都市の硬軟両様の取り組みは一石を投じそうだ。


京都市では外国人観光客が急増している(市内の錦市場)

 「地域住民と観光客の安心安全を両立させるには(法律の)ぎりぎり限界に挑戦する条例が必要だ」。民泊規制を検討するため11月に開かれた有識者会議で、門川大作京都市長はこう強調した。2018年2月の市議会に条例案を提出する方針だ。

 まず住居専用地域では、家主同居タイプと京町家は国が定めた住宅宿泊事業法(民泊法)にのっとって年180日まで営業できるようにする。これらを独自規制の枠外に置いたのは、家主の目が行き届き、騒音やゴミ出しなどのルールが守られやすいと考えたため。家主は地域の自治会などに所属しており、周辺住民は自治会を通じて苦情を直接伝えることができる。「京町家を相続したものの、民泊で収入を得なければ維持費を捻出するのが難しい」という住民の声にも応えた。

 一方で空き家タイプの民泊は厳しく制限する。住居専用地域では観光の閑散期である1~2月の60日間に営業を限定する。住宅地以外でも緊急時の「駆け付け」を義務付ける。10分程度で宿泊施設に駆け付けられるよう、施設から半径800メートル以内に事業者か管理者が駐在するよう求める。これまで海外に拠点を置き、緊急時に連絡が取れない事業者も多かったが、国内に管理する代理人を置く必要が生じる。京都市内では観光地と住宅地が隣接しており、有識者委員会では「住宅地以外でも制限を設けなければ条例の意味がなくなる」という声が多くあがったという。

 ほかにも、住民の生活環境を守るため、分譲マンション内で民泊を営業する場合は管理組合が禁止していないことを示す書類の提出を求めるほか、宿泊者の有無や人数を住民に周知させる。違反した場合は最大5万円の過料を科す。

 今回の条例案に対して、地元の不動産業界からは不安の声があがっている。京都市内で不動産業を営むフラット・エージェンシーは「規制を強めると民泊事業をやりたがっている新規参入者の意欲をそいでしまう可能性がある」と指摘。市内で不動産業を営む都ハウジングの岡本秀巳社長は「全国的にも大変厳しい条例」と語る。

 18年6月の民泊法施行により全国的に民泊が解禁となり、無許可で営業していた民泊が法に基づいて営業できるようになる。だが実態の不透明な民泊が野放しになりかねないとの懸念から、自治体には不安の声が大きい。民泊法は地域の実情に合わせて区域を定め、営業期間を制限する条例を定めてよいとしている。

 先行して条例作りが進んでいるのが東京都区部だ。世田谷区は住居専用地域において月曜から金曜の宿泊(月曜正午から土曜正午までの利用)を禁じる方針。新宿区や中野区は住居専用地域で月曜から木曜の宿泊を禁止することを目指している。いずれも家主同居タイプと空き家タイプを一律に規制する内容だ。民泊の現場からは「利用の実態を無視しており、民泊をするなと言っているのと同じ」という声があがっている。

 石井啓一国土交通相は12月1日の記者会見で、自治体による過度な規制に懸念を示した。日本を代表する国際観光都市である京都市の試みは、ほかの自治体からも注目を集めそうだ。

(山本紗世)

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