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古川浩司:領土問題は世界に向けて執拗に継続発信を(NK2012/9/16)

【メモ】
  • 現代史を国民に。
  • 世界に向けての広報を。
  • 中国、韓国、ロシア、米国も言うべきことは言わないと伝わらない。
  • 国際放送の強化 【cf.】 CCTV(ChinaCentral Television)

利益共有、解決の一歩 中京大学教授 古川浩司氏

境界紛争は陸から海へ
 ――日本は島国なので国境紛争は縁遠い問題でした。
 「世界的にみると最近の境界紛争は陸から海へと移りつつある。地続きだと軍事衝突に発展しやすいので紛争を起こすとデメリットが大きい。中国もロシアやベトナムとの陸の国境線は画定させた。海に関しては1996年に国連海洋法条約が発効し、排他的経済水域(EEZ)が設定されるようになった。それで新しい摩擦が生まれた
 ――島の帰属問題が解決した事例はありますか。
古川浩司氏
古川浩司氏
 「スウェーデンがバルト海のオーランド諸島をフィンランドに渡した例などがある」
 「海の境界を巡り対立がある場合、線引きは諦め、周囲を取り囲む『暫定水域』を定める手もある。本当に争っているのは島ではなく、周囲の漁業権の場合もあるからだ。日韓は竹島周辺を含む暫定水域を設定した。また北方領土の周辺海域も日ロ間で漁業協定が締結されているので日本の漁船も操業できる」
 ――漁場の争いが解決すれば対立を収められますか。
 「境界地域を回ってみると、東京と温度差を感じることがある。例えば北方領土に接する北海道根室市では経済交流を通じた活性化を望む人もいる。根室のすべての人が『何が何でも4島返還』とは必ずしも思っていない」
 「逆に東京では4島の即時一括返還しかない、それ以外は一切認めない、という風になってしまった。首相が政治決断して2島あるいは3島などで決着させようにも、それを許さない雰囲気がある。韓国でも昔は竹島への関心はさほど大きくなかったのに今では韓民族のナショナリズムの象徴になってしまっている」
 ――領有権を永遠に棚上げすることは可能でしょうか。
 「暫定水域や共同開発などを通じて経済的利益を共有し、対立が薄まれば領有権の問題を解決しなくてはならない動機はなくなる」
 ――双方に利益があることが大事ですね。
 「北方領土でいえばロシアはジャパン・マネーに関心がある。しかし日本企業は外務省の方針でビザなし渡航以外では行けない。ロシアは国後・択捉に中韓の企業を呼び込んでいる。日本はビジネス機会をむざむざ失っている」
 「冷戦直後は北方領土に住むロシア人は根室に憧れていた。いまは根室の方が寂れているかもしれない。国の論理で地方が経済発展できないならば、その補填がもっとあってもおかしくないはずだ」
 ――どの国もナショナリズムが高まっています。
 「日本人は現代史を習わずにきた人が多くて歴史問題をわかっていない。『日本は間違っている』といわれて日本的な心情から『そういう考えもあるかな』と答えるから向こうも『それみろ』となる」
 ――言い返さないのが大人の対応という人もいます。
 「黙っていたら黙認したことになる。日本人同士ならば以心伝心が重んじられるが、中国、韓国、ロシアそして米国も言うべきことは言わないと伝わらない国だ。竹島を放棄すれば韓国は他の歴史問題で要求をエスカレートさせる。返還は容易でなくとも主張すれば歯止めになる」
 ――日本は領土紛争にどう対応するのがよいですか。
 「何もしなければ尖閣を失うかもしれないが、いきなり自衛隊を駐留させるのも行きすぎだ。警察力である海上保安庁を強化することだ。外交の継続性も必要だ。例えばロシアと互いの立場を尊重しながら領土交渉を進めてきたのに菅直人首相がそれを無視して『(4島占拠は)許し難い暴挙』と怒鳴った。ロシアは何だと思ったことだろう」
 ふるかわ・こうじ 筑波大卒。大阪大院博士後期課程単位取得退学。主論文に『越境する日本の境界地域?』など。40歳
関連キーワード
排他的経済水域、暫定水域、竹島、北方領土、領土紛争