2016/08/21

取締役会、全会一致のなぜ。和の尊重

会社法より十七条憲法? 取締役会、全会一致のなぜ
2016/8/8nk 編集委員 塩田宏之

 東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の適用開始から1年余り。1、2部上場企業に2人以上の社外取締役選任などを求めた同コードの適用で、取締役会は変わったのだろうか。

 会社法では取締役会決議の条件を過半数と定めている。少数の社外取締役が会社側の提案に反対しても、採決すれば多数派の社内取締役に押し切られる。だから2人程度の社外取締役の意見は聞き流すだけではないか、という懸念が生じる。だが実際には「社外取締役の理解が得られず、決議が持ち越しになる事例が増えた」(会社法に詳しい塚本英巨弁護士)。

 なぜか。経営共創基盤の冨山和彦・最高経営責任者(CEO)は「ことを荒立てて決めたくないので全会一致が慣習になっている企業が多いから」と言う。

 M&A(合併・買収)や資金調達など、取締役会の議案は社内役員が経営会議などで議論して固める。だから取締役会で疑問を述べたり、反対したりするのは社外取締役が大半だ。「日本企業は社外取締役を尊重しており、彼らが1人でも反対したら採決を強行しないのが一般的」(企業法務に詳しい太田洋弁護士)

 反対票が出そうなら決議を先送りして議論を続けるか、修正案をつくる企業が多い。それでも納得を得られなければ「議案を取り下げる」(銀行の役員)こともある。今年4月にセブン&アイ・ホールディングスの取締役会でグループ人事案が否決されたのは、異例中の異例といえる。

 社外取締役が過半数を占める日立物流では過去2年間に数回、会社側の提案に社外取締役が疑問を投げかけたため、議案が修正されて採決された。ただ最後は全会一致だったという。

 日東電工では「全会一致の原則や慣行はない」(武内徹取締役)。実際に決議で反対意見が出たこともある。HOYAも反対票が出たことがあるが、例外的だという。上場企業全体では反対票ゼロの決議が圧倒的だろう。「和の尊重」を説いた聖徳太子の十七条憲法を、会社法より重んじているかのようにみえる。

 社外取締役が過半数を占める米国企業はどうか。いちごアセットマネジメントのスコット・キャロン社長は「米企業も全会一致が望ましいと考えているが、日本企業よりは反対票が多いようだ」と話す。

 日本では全会一致の慣行があるため、社外取締役が少数でも意見が尊重され、会社の意思決定に変化をもたらした。社外の視点を加えた議論の深まりは企業統治の進歩と評価できる。だが全会一致が絶対視されると、社外取締役が事実上の拒否権をもつことになる。彼らの説得や、妥協案づくりに時間がかかり、意思決定が遅れる恐れもある。

 議論の深さと迅速さをどう両立させるか。経営コンサルティング会社、エゴンゼンダーの佃秀昭社長は「議論を早めに始めることが重要。M&Aなら、水面下の交渉を始めた時点で報告をしておけば、時間を確保しやすい」と言う。

 議論を十分尽くしたなら、過半数決議に踏み切ることがあってもいいのではないか。取締役会議長の判断力が問われる。

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