ふえる外国人に「やさしい日本語」
避難→にげる/不燃ごみ→こわすごみ 自治体がくふう
2018/4/7付 nk
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熟語や慣用句を使わない「やさしい日本語」で情報発信する取り組みが広がっている。もともとは災害時に外国人に避難を促すために考案されたが、留学生や技能実習生ら長期滞在者が増えるなか、自治体などが暮らしに関わる情報を伝えるのに取り入れ始めた。住民同士のコミュニケーションでも、なるべく平易な表現を使おうという動きが出てきた。
横浜市は2017年度から、一橋大の庵功雄教授が製作した「書き換え支援システム」を市職員向けに導入した。例えば「避難してください」と入力して画面上の解析ボタンを押すと「避難」の単語に赤い印が付く。カーソルを合わせると「逃げる」と言い換えが表示された。
文章の難しさを診断する機能もある。漢字や文法などから6段階で評価し、より分かりやすい表現にするよう促す。職員が新たにやさしい単語や言い換えを登録できる機能もある。
横浜市で暮らす外国人は約9万2千人(18年2月末)で、13年度末から約4年間で2割増えた。ネパールやベトナムなどからの留学生が増加。出身地は約150カ国・地域に及ぶ。「全ての言語に対応するのは不可能。外国人にも分かる日本語で情報発信するほうが現実的」(広報課)
日系ブラジル人ら外国人労働者が多く住む愛知県豊橋市は16年4月、ごみ分別を徹底するため市指定のごみ袋を導入するのにあたり、可燃ゴミ、不燃ゴミといった呼び方ではなく「もやすごみ」「こわすごみ」と表記した。英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語の翻訳も添えた。
「外国人住民の多い地域は、ごみの出し方を巡るトラブルが多かった」(環境政策課)といい、多文化共生・国際課が助言しながら作った。住民説明会で配った資料も漢字にルビを振ったり、難しい言い回しを避けたりして外国人が理解しやすいようにした。
東京都福生市は17年から、住民向けの講座を開いている。3月の講座では、市の広報紙をやさしく言い換えるグループワークに取り組んだ。参加者らは「減農薬」「小雨天決行」といった表現を巡り「『薬』だとおかしいかな」「雨の量をどう表現しよう」などと相談しながら、言い換えに挑戦した。参加した女性(60)は「これまで近所の外国人にどう話しかければいいか分からなかった。これを機会にコミュニケーションをとってみたい」と話していた。
川下りや落語に
川下りが名物の福岡県柳川市は16年から、やさしい日本語で観光案内しようと、船頭や宿泊施設の従業員らを対象にした研修会を開いている。約100人が参加した2月の会では、招待した中国や東南アジアからの留学生約40人を相手に観光名所の案内などを練習した。
16年度に柳川市を訪れた外国人約12万人のうち、半数以上が台湾からの観光客。市観光課の担当者は「台湾の人は日本語への関心が高く、ある程度は理解できる。無理に外国語を使わず、日本語でおもてなしすればいいと気がついた」と話す。
伝統の話芸を生かす試みもある。島根県出雲市は17年12月、海外公演の経験が多い落語家の桂かい枝さん(48)を招き「やさしい日本語寄席」を開いた。客席の約100人のうち約20人が市内在住の外国人。その場で手ほどきをうけたミャンマー人とベトナム人の観客がそれぞれ舞台に上がり落語を披露すると、会場は笑いと拍手に包まれた。市の担当者は「笑いを通じ住民にやさしい日本語を普及させたい」と話している。
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きっかけは阪神大震災
弘前大の佐藤和之教授(社会言語学)によると、やさしい日本語が注目されたのは1995年の阪神大震災がきっかけ。外国人に避難所などの情報が伝わらず、水や食料を受け取れない人も出たのを教訓に考案された。やさしい日本語を使った避難の呼びかけや防災マップ作りは北海道から沖縄まで全国の自治体に広がっている。
千葉市国際交流協会は16年、外国人100人を対象にアンケートを実施。通常の表現とやさしい日本語について理解度を調べた。
「警戒する」と「気をつける」、「頭がガンガンする」と「頭がとても痛いです」など10項目を0~3点の4段階で聞いたところ、通常表現が平均1.2点だったのに対し、やさしい日本語は2.5点と理解度が高かった。熟語や「ガンガン」といった擬態語は分かりにくいこともわかった。
佐藤教授は「米国では、行政による情報伝達ではなるべく専門用語を使わないよう義務付けられている」と指摘。「多言語で情報発信するのが一番だが、日本語でも平易な表現を心がけることが重要だ」と話している。
(前田悠太)
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