2018/04/21

東南アジアに はびこる強権:根強い既得権益層、中国のバックアップ。nk2018/4


東南アジア はびこる強権(上) なりふり構わぬ政権維持 異論封殺・ばらまき併用
2018/4/18付nk

 東南アジアで強権を振りかざす政治がはびこっている。政権側は手段を選ばずに異論を封じ、自由を求める国民の声も大きなうねりにならない。経済成長が続き、豊かになった東南アジアで、民主主義の未成熟ぶりがあらわになっている。



 やり玉に挙げたのは、ナジブ首相に海外から冷ややかな視線が注がれているという記事だ。政権が批判記事に怒るのはどの国も同じだが、マレーシアでは緊張が走った。偽ニュースに最大約1350万円の罰金や禁錮刑を科すという、偽ニュース対策法案の成立が確実になっていたためだ。

 11日に適用可能になった同法は「政権が汚職を覆い隠すための武器になる」と風刺漫画家のズルキフリ・アルハグ氏は恐れる。与党に有利な選挙区割りへの変更、有力野党への活動停止命令――。ナジブ氏はなりふり構わず政権維持を狙う。

 軍事政権4年目の隣国タイは昨年施行の新憲法で軍の政治介入を認め、国会の上院を公選制から任命制に戻した。プラユット暫定首相が「来年2月までに実施する」と明言した下院選も、親軍政党の育成が遅れれば先延ばしされかねない。

 東南アジアでは豊かな2つの国で民主化の針が逆戻りする。共通するのは政権側の恐怖心だ。

 マレーシアでは1957年の独立以来続く国民戦線の政権に対し、選挙を重ねるたびに国民の飽きと反感が明確になってきた。ナジブ氏は自身の不正資金疑惑も抱え、5月9日の連邦下院選挙で負けられないと焦る。

 ナジブ氏は下院解散直前に公務員に給与の引き上げと特別手当の支給を約束した。同国の投票登録済みの有権者は約1500万人で、約160万人の公務員、その家族は勝敗を左右する票田だ。ばらまきで選挙を有利に運ぶ意図は明白だ。

 タイの軍政が恐れるのは、2度のクーデターで政権の座から追ったタクシン元首相派の勢力の復活だ。タクシン氏は首相在任時のばらまき政策により、今も農村で根強い人気を誇る。そのタクシン氏の影と戦うかのように、プラユット氏は地方を訪れるたびに地域振興策をぶち上げている。

 強権による異論の封殺と、大衆の歓心を買うポピュリズム政策の併用。エリート支配だった過去と異なる形で開発独裁が復活している。国民は安定と経済発展を優先し、政治的自由を求める声は盛り上がりを欠く。


 民主主義が比較的定着したとされ、国民の権利意識が高まったインドネシアでは、土地収用の遅れによるインフラ整備の停滞が目立つ。スハルト政権の独裁時代を「経済成長が速かった」となつかしむ人が増え、「プーチン(ロシア大統領)が必要だ」(ファドリ国会副議長)と強権指導者を待望する声も上がる。

 スハルト政権の崩壊から20年。独裁時代を知らない国民が半数に迫り、価値観も揺らいでいる。

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東南アジア はびこる強権(中) チャイナマネーが後ろ盾 欧米との対立辞さず
2018/4/19付nk

 「私の乗った飛行機が爆破されたら、米中央情報局(CIA)を疑ってほしい」「欧州諸国はアフリカを侵略し、大虐殺を繰り広げた」。フィリピンのドゥテルテ大統領は5日、首都マニラでの演説で欧米に対する悪口をまくしたてた。



 死者が出るのもいとわない強引な薬物捜査を進めるドゥテルテ氏。社会にはびこる薬物を一掃するには強権的な手段しかないと主張し、人権軽視だと非難する欧米に反発する。3月には予備調査に乗り出した国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)からの脱退を決断。「我が国に調査に入れば逮捕してやる」と息巻く。


 ミャンマーの最大都市ヤンゴンの地区裁判所で11日、機密所持の罪で起訴されたロイター通信の記者2人の公判が開かれた。裁判所は弁護側が申し立てた公訴棄却の請求を却下した。

 2人はイスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害問題を取材中に逮捕された。欧米では迫害を報じられたくない当局の妨害との見方が強く、釈放を求める声が上がるが、最高指導者のアウン・サン・スー・チー国家顧問に耳を貸す様子はない。

 欧米との対立も辞さない指導者たち。強気を支えているのが、強権体制に口を挟まずに経済支援をする中国の存在だ。


 カンボジアの首都プノンペン。中国企業とおぼしき建設会社が高層マンションを建設し、中華料理店、中国人向けスーパー、人民元交換所が立ち並ぶ。北東に110キロメートルの場所では中国の資金による8つ目の橋が2月に着工。2016年の中国の直接投資額は51億ドル(約5500億円)で国別トップに立つ。

 2月の上院議員選挙では与党カンボジア人民党が完勝したが、それは最大野党を弾圧して解散させたためだ。独裁だと批判する米国は援助を削減し、欧州連合(EU)も制裁を検討すると警告した。だが、中国の後ろ盾を得たフン・セン首相は「好きにするがいい」と余裕を見せる。


 ロヒンギャ問題でもミャンマーを擁護するのは中国だ。国連安全保障理事会で議題にすることを常任理事国の中国が拒否してきた。スー・チー氏は「体制移行期の困難を理解してくれる国を大事にしたい」と発言。西部ラカイン州の港湾建設を中国に委ねるなど経済的な依存を強めている。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版は9日、中国が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島の人工島に電波妨害装置を配備したと報じた。フィリピンは同諸島の領有権を主張してきたが、ドゥテルテ大統領の就任後は中国に融和姿勢を示す。好機と見た中国は軍事拠点化の動きを加速させている。

 東南アジアの強権指導者による中国への傾斜は、地域の軍事バランスも変えつつある。欧米が人権や民主主義といった価値観を押しつけるほど、各国がさらに中国になびきかねず、中国の軍事的な支配力が強まるリスクをはらんでいる。

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東南アジア はびこる強権(下) シンガポール南洋工科大教授 ジョセフ・リオウ氏
2018/4/20付nk

 経済発展が続き、豊かになった東南アジアで強権政治がはびこる背景を識者に聞いた。




 ――東南アジアで民主主義がなかなか定着しません。

 「長い目でみれば冷戦の終結後、東南アジアでも少しずつ民主化が進んできた。ただ、社会が自由になる過程で集団の間で緊張が高まり、暴力が発生することは過去の歴史でも多くみられた」

 「半世紀以上にわたって軍が内政を掌握してきたミャンマーの人々にとっては、民主主義は新しい概念だ。仏教徒の間でナショナリズムが盛り上がり、イスラム系少数民族ロヒンギャの問題が深刻になっているのは不幸なことだが、避けがたい出来事だったともいえる」

 ――欧米でも民主主義の定着に長い時間がかかったことを考えると、先は長いのでしょうか。

 「民主主義には権力が個人ではなく、制度に帰属するといった重要な原則がある。連邦議会下院の解散直前に政府機関が有力野党の活動を停止したマレーシアの例などは、首相個人の思いが制度を侵食した悪い例だ。カンボジアでもフン・セン政権によって本来の制度が完全に破壊された。時間がかかっても、原則を再構築していかなければいけない」

 ――東南アジアの民主主義は欧米とは異なった道を歩むのでしょうか。

 「中低所得層の貧困や失業率の上昇を背景に、ポピュリズム(大衆迎合主義)が高まる欧米でも民主政治は試練を迎えている。東南アジアの人々の暮らしはアジア通貨危機以降、豊かになっており、欧米のポピュリズムとは背景が異なる」

 「一方で、異なる宗教の人々が同じ公共住宅に住むといった、欧米以上に多様な東南アジアの社会構成は緊張や分断を生みやすい。政治家は自らの権力を正当化するために分断を強調するのではなく、民族や宗教の違いを収めるよう努めるべきだ」

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京大東南アジア地域研究研連携講師 外山文子氏 中国の影響力負の効果
2018/4/20付nk

 ――東南アジアで権威主義への逆行が目立ちます。なぜでしょうか。



 「麻薬撲滅運動での人権侵害が問題となっているフィリピンのドゥテルテ大統領ら、強権的な政治指導者の多くが選挙で選ばれていることは明確にしておきたい。人権の保障は後退しても強硬な麻薬撲滅を支持する国民も多く、民意を反映していないわけではない」

 「東南アジアで民主化が進んで20年ほど経過したが、選挙は一般国民にとって万能薬ではなかった。変わらない格差、麻薬、汚職などの現実を前に、国民が強権による解決を望んでいる側面がある」

 ――国際情勢の変化も影響していますか。

 「欧米と衝突しても中国という選択肢があることは大きい。中国の影響力増大が東南アジアの民主化にマイナスなのは間違いない。インターネットの発達などで域内国間でも影響を与え合っている。タイの軍事政権復活はカンボジアなどに負の影響を与えている」

 ――東南アジアに権威主義を容認する共通の土壌があるのでしょうか。

 「東南アジアの主要国では冷戦下、長期独裁政権が『開発独裁』を推し進めた。歴史的に権威主義体制による統治の経験が長い。ただし現在の政治指導者と冷戦期の開発独裁は同一ではない。今世紀の強権性は過去の負の遺産を乗り越えるため、または既得権益層との衝突から生じている

 ――経済発展しても民主主義が成熟しないのはなぜでしょうか。

 「韓国や台湾では民主主義的な政治システムが機能し、国民の政治的権利や市民的自由が保障されている。東南アジアでは植民地支配や開発独裁下にできた既得権益層のネットワークが根強く残り、政治力を維持している



 遠藤淳、中野貴司、小谷洋司、富山篤、新田裕一、鈴木淳が担当しました。



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