「建国の父」没後3年、次代の指導者探すシンガポール
2018/4/1付 nk
シンガポールの中心部にあるホンリム公園で3月上旬、日本の消費税に相当する物品サービス税(GST)の引き上げ計画に反対する集会が開かれた。ホンリム公園はシンガポールで政治的な集会が認められる、唯一と言える場所だ。時折小雨の降る中、約100人が集まり、「政府はインフラに税金を使いすぎだ」などと叫んだ。
リー・クアンユーはシンガポールに「奇跡」と呼ばれた発展をもたらした
GST引き上げ反対派は、現在の7%を2021~25年の間に9%にする計画が家計を圧迫すると懸念する。英調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる世界の生活費調査では、シンガポールが世界で最も高い。
シンガポール「建国の父」と呼ばれるリー・クアンユー元首相が死去してから、3月23日で3年がたった。資源に乏しい小さな島国を先進国並みに変えたのはリー氏だ。立地の良さと戦略的な低税率を武器に、シンガポールはアジアの貿易の中心地となった。世界的な企業が数多く立地し、政府は富を国民に分け与えることができた。
しかし、「奇跡」と呼ばれた発展は持続が難しくなっている。この局面で重なるのが、シンガポールの新たなリーダーを見つけるという大問題だ。総選挙が21年4月までに予定され、リー氏の長男で現首相のリー・シェンロン氏は選挙後の退任を示唆しているが、後継者はまだ決まっていない。
若い閣僚のうち、昇進の早さや重要省庁・軍の経験からみて、3人が有力候補とされる。ヘン・スイキャット財務相とチャン・チュンシン首相府相、オン・イーカン教育相だ。ただ政治学者らは、3人がこれまでの首相経験者とよく似ているとは言えないという。シンガポールは1965年にマレーシアから分離独立して以来、3人の「強い指導者」が治めてきた。2代目首相のゴー・チョクトン氏は地域の金融センターとしての地位を高めた。リー・シェンロン氏は、頭脳労働で富を生む知識経済をつくりあげてきた。
シンガポールには今まで以上に傑出したリーダーが必要かもしれない。保護主義の動きが高まり、中国は自己主張を強めている。次の首相は自由貿易を守るために戦う準備が必要だ。
経済の勢いを示す成長率は04年のリー・シェンロン氏就任後、年平均で約5.3%と過去に比べて鈍化傾向にある。政府は、進む高齢化で医療費により多く予算をさき、新たな脅威に対応するため国防費も増やす。不評にもかかわらずGSTを引き上げる理由のひとつだ。だが増税の動きは、シンガポールの低税率モデルの持続に疑問を投げかける。
トランプ米大統領の保護主義的な政策もシンガポールに暗い影を落とす。リー・シェンロン氏は最近、オーストラリアのメディアに対し「報復を繰り返す貿易戦争が起きれば、大小を問わずすべての国が影響を受ける」と語った。シンガポールは次の指導者への円滑な移行に成功し、繁栄を持続する道を見つけることができるか。今後2~3年が重要になる。
リー・クアンユー氏はシンガポールの将来に関し、慎重な見方をしていた。「都市国家が生き残った例は少ない。しかし、我々の発展を支えてきた能力主義の原則を貫けば失敗を避けられる。特に、政府の指導者に最高の人材を充てることだ」と回顧録で書いている。
(シンガポール=岩本健太郎)
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リー・クアンユー。50年でシンガポールを超一流国にした建国の父。3月23日没。李光耀。Lee Kuan Yew
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