「政治の季節」に民主化逆行の懸念 札束外交、各国に影響力
2018/4/14付nk
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- ASEANは、中国の札束外交に好意的
- 国家発展には中国モデルが手本になると感じ始めた
- 各国政府も強権化
マレーシア連邦議会下院選が5月9日に決まり、東南アジア諸国連合(ASEAN)は来年にかけ国政選挙が続く「政治の季節」に突入した。ただ各国は政府の強権ぶりが目立つ。背後に透けるのは圧倒的な経済力で影響を深める中国の存在だ。
「ナジブ政権らしい単刀直入な手口だ」。マレーシア当局が5日、マハティール元首相の野党に書類不備で活動停止を命じると、ASEANの外交官が感想を漏らした。
資金繰りを支援
野党弾圧は徹底している。7日の下院解散の直前になり、与党に有利な選挙区変更や批判封じの「反フェイク(偽)ニュース法」を成立させた。
かつて師弟関係だったマハティール氏とナジブ首相。対立の発端は2015年にナジブ氏に浮上した、政府系ファンド「1MDB」の資金流用疑惑だ。野党は「反汚職」を訴えるが、隠れたもう一つの争点が中国だ。
「中国が工業製品やパーム油を買ってくれなくなれば経済はどうなるか」。ナジブ氏は1日の演説で野党に反論した。
マハティール氏は最近の中国優遇を「不健全」と批判。マレー半島南端のマラッカ海峡からクアラルンプールを経て、東海岸を北上する縦断鉄道の建設を丸投げしたことをやり玉に挙げ、野党が勝てば見直すと訴える。
実際、ナジブ政権は中国への肩入れが目立つ。13年10月、習近平(シー・ジンピン)国家主席の公式訪問を合図に、広域経済圏構想「一帯一路」を積極的に受け入れ始めた。進行中のプロジェクトは鉄道や電力、港湾、工業団地など約30件、総工費は9兆円を超す。
ナジブ氏の父で第2代首相だったラザク氏は1974年5月、ASEAN(当時は5カ国)で最初に中国と国交を樹立した。ただより注目すべきは1MDBとの関連だ。
肝煎りの1MDBは負債が4年で420億リンギ(約1兆1600億円)に膨らみ、資金繰りに窮した。「助け舟」を出したのが中国だ。15年11月、政府系ファンド1MDBの傘下企業が持つ発電所を、国有電力が負債も含め158億リンギで買収。その後、一帯一路の受け入れが加速した。
マレーシアはASEANの縮図といえる。
半世紀前に「反共同盟」として発足したASEANは、改革開放で中国経済が急成長すると、今度は輸出市場や外資を奪われる脅威とみなした。
だが今は関係緊密化にひた走る。05年発効の自由貿易協定(FTA)は95%の品目で関税を撤廃。中国の他のFTAより自由化度が高い。日本総合研究所の大泉啓一郎・上席主任研究員は「世界2位の中国市場はASEANに最も開放されている」と話す。16年の中国の輸入先はASEANが12.7%を占め首位だ。
米国の影薄まる
対照的に戦後、経済・軍事に介入し、民主化の伝道師も自任した米国は存在感を失いつつある。
経済発展の果実を気前よくばらまき、人権などにうるさくない中国は、ASEAN各国には都合がいい。だからこそ米中のパワーバランスの変化は強権政治を助長する。
7月に総選挙を控えるカンボジアは最大野党を解散に追い込んだ。批判する米国との定例合同軍事演習は停止し、16年に演習を始めた中国に傾斜する。カンボジアの対外債務の4割超は中国。フン・セン首相は「中国は口よりも多くのことをしてくれる」と称賛する。
来年初めに民政復帰への総選挙を行うタイは、軍の政治関与を許す規定を憲法に盛り込んだ。同盟国の米国からの非難は無視し、世論の反対を押し切って中国製の潜水艦や戦車の購入を決めた。
思い出すのは習氏がマレーシアを訪れた13年秋だ。発足直後の習指導部はアジア太平洋経済協力会議(APEC)や東アジアサミットに合わせ習氏と李克強(リー・クォーチャン)首相がASEAN5カ国を歴訪した。日本の外交筋は「2期10年は自分たちが仕切るとの顔見せ」と受け止めた。
国家主席の任期撤廃で習体制は長期化が確実。「社会主義現代化強国」を掲げ、米国を抜く野望を抱く中国には、自身と同じ強権国家がくみしやすい。“札束外交”になびくASEANも、国家発展には中国モデルが手本になると感じ始めた。民主化逆行の現実はアジアだけの問題ではない。
(アジア・エディター 高橋徹)
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