あすへのとびら: 安倍首相の女性活躍 「輝く社会」めざすなら
引用・太字 :信毎、12月21日
安倍晋三首相は第2次政権で女性の積極登用を売り物の一つにしてきた。第3次政権に向けての自公連立合意にも「すべての女性が輝く社会の実現」を盛り込んだ。
女性政策はこれからも政権の看板であり続ける。
解散前の衆院に提出し廃案になった女性活躍推進法案は、女性登用の数値目標と行動計画を作って公表することを企業に義務付ける内容だった。
2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にするのが目標だ。
日本は女性の地位では他国に大きく見劣りする。スイスのシンクタンク世界経済フォーラムの男女格差報告では、136カ国のうち格差の小さい方から数えて105番目。女性の地位向上はやり残している宿題の一つである。取り組むことに異論はない。
安倍政権の女性政策で気になることがある。
第一に、経済成長のために女性の力を動員する発想が見え隠れすること。
第二に、指導的地位に縁遠い大多数の女性への目配りが弱いことだ。
第2次政権の時の「骨太方針」で、女性活躍は「成長戦略」の項目に入っている。シングルマザーや事実婚の女性を支援する施策は見当たらない。
政府の視野には、能力に恵まれ結婚して子どもをつくる女性しか入っていないかのようだ。
<どこまで本物か>
「輝く女性と首相は言うが、輝きたくても輝けない、生活に追われ苦しんでいる女性にどんな施策を講じるのか。それこそが本質的な課題ではないか」
先の国会での野党議員の質問だ。うなずく人は多いだろう。
そもそも首相は、女性が置かれた状況についてどんな問題意識を持っているのだろう。これが至って分かりにくい。まとまった形の言及が見当たらない。
著書「新しい国へ」で女性に触れた記述は、ジェンダーフリーについて論じた部分にある。
首相はジェンダーフリー教育に疑問を投げかける。同棲(どうせい)、シングルマザー、同性愛カップルなどを「多様な家族形態の一つ」と学校で教えるのは行き過ぎだ、と。そして「家族、このすばらしきもの、という価値観を尊重すべきだ」と力説する。
ジェンダーとは社会的、文化的な性差を指す。生物的な性差と対比される。ジェンダーフリーとは簡単に言えば、理屈に合わない女性差別をやめようという話だ。家族の価値の否定ではない。
ジェンダーフリーは世界で積み重ねられてきた女性解放、差別解消の取り組みに立脚している。日本では1986年の男女雇用機会均等法、99年の男女共同参画基本法を経て、政府の女性政策の基本理念になってきた。
首相が著書で披歴する見解は、ジェンダーフリーの意味するところを曲解した暴論だ。
首相の周辺には男女共同参画に否定的な人が多い。
首相がNHK経営委員に起用した埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏は「生活の糧をかせぐ仕事は男性が主役となるのが合理的」とのコラムを新聞に発表、「共同参画と相いれない」と首相が国会で追及される事態を招いた。首相が第2次政権で閣僚に起用した山谷えり子、高市早苗両氏はジェンダーフリー教育反対の急先鋒(せんぽう)だ。
<多様さの尊重こそ>
こうした顔ぶれを見ると、首相の女性重視がどこまで本物か、疑問がわく。「女性が輝く社会」を目指すと言われても素直にはうなずけない。
首相が本当に「女性が輝く社会」を目指すなら、家族のかたちや働き方を含め、多様な価値観を持つ女性の一人一人が個性を発揮できる基盤づくりにこそ力を入れるべきだ。賃金の男女格差を解消する、保育所を増やす、シングルマザーの暮らしを支援する、といったことだ。男性が生きやすい社会にもつながる。
廃案になった女性活躍推進法案は審議が一からのやり直しになる。女性の力を成長に利用する発想をやめて、男女共同参画の理念を踏まえた内容に組み替えるべきだ。保育所の待機児童解消に向けた支援策、男性も育児を担うための労働時間短縮など、やるべきことはたくさんある。
〈婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する〉。憲法24条だ。
自民党が2年前に発表した改憲草案はこの規定から「のみ」の2文字を削った上で、前段に「家族は互いに助け合わなければならない」とする条文を加えている。
改憲案のこの条項については、結婚に家長の許可が必要だった旧民法の「家」制度の復活につながらないか、育児や介護を女性に押しつける結果にならないかと、女性団体などが懸念を示している。首相の考えを聞きたいところだ。
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女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム
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