東京から地方への流れを。 nk2016/10/20

東京から地方への流れを
2016/10/20付 nk

 列車に乗って地方を旅してみると、地方の疲弊ぶりが身に染みる。欧州旅行で感じる地方の美しさとは格段の差がある。

 とはいえ、日本の地方にはまだまだ見るべきものがある。伝統的な産業や食材も残されている。そんな魅力的な地方が壊れてきた背景として、次の3つを指摘しておきたい。

 1つは地方文化に対する誇りが薄れたことである。東京だけを見て、それに憧れ、自分たちの文化を蔑んできた。言葉への執着のなさが典型だ。

 しかし東京のどこが良いのか問い直してみよう。大枚をはたいて郊外に狭い家を買い、通勤地獄を味わいながら職場に毎日通うことが東京生活の最大の楽しみなのか。

 2つめはインフラの劣化である。地方の願いは新幹線が通ることとされるが、それが本当に地方を活性化させるのか。せいぜい県庁所在地と大都市を結ぶだけで、新幹線は地方の文化や経済を空洞化させているのが実態だ。新幹線への願いは「箱物崇拝」的である。

 地方の最重要課題は、住民が満足する生活を地方だけで完結できるためのインフラ構築である。在来の鉄道網の複線化やバス路線の維持、病院の整備などを指摘しておきたい。

 最後の1つは人口減少と老齢化である。これは日本全体の問題だが、衰退した地方から若者が都市部に流出し、それが地方の衰退をさらに加速させている。

 今後の日本の成長は海外需要に依存している。国内ではない。この事実は東京の価値を引き下げている。企業が東京に本店を置くのにこだわる必要はない。世界各地にアクセスできるなら、地方の拠点で十分だ。

 社員の生活や勤めやすさを考えれば、地方拠点に大きな価値がある。インターネットや情報処理技術の発展は、地方に住み、経済活動をするハードルを低くしている。物理的に移動せざるを得ない場合の交通インフラさえ整っていれば、大きな支障はない。

 地方活性化に向けて、政府には斬新な発想が求められる。地方へのインフラ提供とともに重要なのは、課税制度を使って東京から地方へ所得の再分配を図ることである。企業や個人が地方に経済的魅力を感じるようになれば、それが呼び水となり、人口が東京から地方へと流れる。

<大機小機(癸亥)

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