2011/01/23

地域再生への提言

#15:若者が故郷で働けるように

東四柳史明・金沢学院大教授(石川)

  私は、大学で歴史を教えていますが、常々ゼミの学生たちに、卒業したら給料は少し安くても地元で就職し、故郷で落ち着いて暮らすことを強く勧めており、今春もほとんどのゼミ生が、出身地に帰って行きました。また卒業論文のテーマを選ぶ際も、できるだけ出身地域の歴史や民俗を研究するよう指導してきました。

  それは地域社会の振興は、故郷で生きることに誇りをもつ若者たちが、多く輩出することに尽きると考えているからです。

また私の住む能登半島は、過疎地で悩んでいますが、近年空港ができ、東京が近くなりました。

  一方石川県では、金沢市周辺に一点集中の傾向が強まっています。そこでお父さんたちは、都会で仕事をしていても、その家族の生活拠点を地方に移し、子供たちを、祖父母の住む地方の学校で学ばせることができないかと考えています。

  国や地方自治体のそれに向けての方策や生活環境整備への工夫を期待します。地方では若年層の定住の増加が急務です。



#14:グローカルな視点を

熊倉浩靖・群馬県立女子大准教授

前世紀の末に「グローカル」という言葉に触れた時、日本人らしい造語だなと思ったが、暫くして、それがUNESO提唱の言葉であると知った時の驚きと感動が今も続いている。

思い返してみれば、世界遺産の考え方はまさにそのようなものだ。地域固有であるとともに、それゆえにこそ人類的普遍性を持ちうる営み、その歩みこそ世界遺産にふさわしい。

そこから、地域振興を考え、あるいは進める時、その思いや活動はグローカル(glocal)かがいつも気になる。地域にあって人々が暮らしあえることが地域振興の基本だが、それは、60億を超える人々と暮らしあえることでなければならないと思うからだ。持続的発展可能な社会を、内発的な発展を進め合う地域間の交流でどう形作っていくか。内部にあっても、人類普遍の価値を求め生み出すような組織、仕組みになっているか。その絶えざる検証が必要なように思う。そのためには、自らの位置を客観的に見ることが不可欠と思う。

<*グローカル:global+local>

#13:地域の魅力を創ること

都竹淳也・岐阜県商工政策課課長補佐

地方のみならず、我が国全体の課題は人口の減少である。
少なくとも向こう半世紀は続くと見込まれるこの問題の中で特に注目すべきは、所得を稼ぎ、消費し、地域を支える現役世代の人口が減少することである。
それは、そのまま、地域の担い手が減り、消費が減少し、地域の経済が縮小することを意味する。

人口減少時代において、地域を振興する最も効果的な対策の一つは、交流人口を増やし、地域外から消費を呼び込むこと、すなわち観光交流の拡大に取り組むことである。

そのためには、人を魅了する地域資源を大いに活用すること、地域の食材や伝統を活かした食事や土産を準備すること、長時間滞在につながる仕掛けをつくることが必要である。

これらはまちづくりそのものといっていい。一発逆転型のアトラクション開発に頼るのではなく、地域の魅力を見つけ出し、創り出し、磨き上げ、人に知らしめていくという地道な取り組みこそが、今求められていると思う。


#12:誰にでも農林地を取得できるチャンスを

高橋泰子・緑と水の連絡会議理事長(島根)

地域内で物質循環できる農林業の振興をやりたい。
地域内の資源をつぶさに利用し、生活を維持、そこに豊かな文化が存在できる仕掛け作り。
その文化を伝承するに必要な人・金物が集まり、コミュニティが健全に発達するような農林業振興。
そこには教育・福祉が言わずもがな備わる筈。

そんな「まち」に仕切り直すためには先ず誰にでも農林地を取得できるチャンスが得られるようにしたい。土地が手に入れば次は生産技術を身につける教育の確立だ。
農大に入学してもいいが、地域に直接入って教えを請えるシステムが必須だ。
これは地域との付き合い方も一緒に学べて一挙両得である。
いずれも5年間は生活保障付き。
地域に入るほうは高齢者の安心見守りも兼ねるので倍の保障とする。
新規就農者を迎え入れた地域にも特典があったほうがいい。また、バイオマスの徹底利用を考えていこう。エネルギーの地産地消はもちろんチップ・ペレット生産等で若者の就労の場作りも必要。


#11: まちの作り直しを

平竹耕三・京都市文化芸術都市推進室長

とりわけ戦後の日本においては、まちは、既存の宅地や業務用地を再整備するよりは、周辺へと向かってスプロールしていった。
これは必ずしも都市に限られたことではなく、町村においても、同様に拡散した。

しかし、首都圏への人口一極集中が進み、人口が減少局面に入いると、地方都市を中心に、歯抜け状に空き家や空き店舗が発生し、車がなければ、単に通院や買物といった日常生活を営むことさえ困難で、暮らしにくいまちになってしまった。

そこで、私としては、これを解消し、子どもからお年寄りまでが安心して暮らせる地域社会を取り戻すことを提案したい。
すなわち、まちの作り直しである。
そのためには、地域社会の人間力を高め、協働的活動を盛んにすることと、土地利用をまったく個人に委ねる現在の制度から、地域社会が適正に利用をコントロールできる制度の構築が必要となる。


#10:持続可能な「地域づくり」への転換を

小山良太・福島大准教授

開発対象としての「地域」から持続可能な「地域づくり」へ転換が必要だと思います。

企業誘致型の開発の失敗は、端的に産業の論理と地域の論理の矛盾である。これまでの全国総合開発計画などは、トップダウン式の地域の「開発」であり、地域は開発の「対象」であった。今求められているのは、ボトムアップ型の地域振興であり、それには、①住民自治(ここに地域教育が含まれると思います)、②内発的発展(地域資源の再発見)、③地域内再投資力(地域内経済循環をつくる1次産業を基盤とした6次産業化)の3点である。

政策としては、具体的には①移入代替(地域内自給率の向上):これは地元販売している域外産の商品・土産品などを域内産に転換していくこと。

②移出代替(域内加工・移出率の向上):加工工程を内部化し、付加価値生産をしていくこと。6次産業化。福島県では、そばを生産しそれを他地域に出荷、加工製造されたものを、自地域で販売するという形が散見されます。原料を生産するだけではなく、同じく商品化するのであれば自前で行おうというものです。

③移出財再移入の防止(地産地消):自分のところで作っている味噌・醤油を他地域に販売し、使用分は別途他地域から購入している状況を改めようというものです。

④地場産業の再検討(コア産業の発見):上記のような取り組みが可能な分野は何か、地域内で再発見しようというもので、多くの農村部ではやはり第1次産業ということになるでしょう。原料生産では付加価値を域内に保持できない。域内における加工・製造工程(商品化)の必要性。内発的な発想の必要性が重要だと考えます。


#9:主体性をもった「住民力」を作り出す教育を

公文豪・高知短大非常勤講師(高知)

地方の衰退は、廃藩置県、中央集権国家体制確立以来の問題で、特に近年の市場主義が地方に与えたダメージは最悪です。
弥縫策として、古くは企業誘致、リゾート開発など様々な「活性化」策が講じられてきましたが、殆ど破綻してしまいました。
国の政策に追随するしかない現在の統治システムを改めることは焦眉の課題です。

しかし、住民の意識改革が伴わない地方分権は、単なる権力の再配分になりかねません。

これからは、大人・子供を問わず、自治の担い手として主体性をもった住民、真の意味での「住民力」を作り出す教育が必要だと思います。私は夜間大学で非常勤講師をしていますが、学生の多くは学び直そうという意欲をもった中高年です。大学などと提携して「市民大学」を常設するなど、学習運動を地域振興の土台にすえないと、これまでの失敗を繰り返すだけではないでしょうか。モノもカネも、作り出すのはヒトですから、長期的視野にたった人づくりが大切と考えます。


#8: 学校で地域の人たちとの出会いを

白戸洋・松本大教授(長野)

従来の学校教育は、画一的な価値観を学校という孤立した空間の中で刷り込んできた。その結果、すでに都会に出る前に、地域から子ども・若者はいなくなり、「児童・生徒」「うちの子」として学校と家庭に囲い込まれた。そして全国一律の価値観で育った若者は当然の帰結として都会に出ていく。

「まちをつくるというのは、人の心を変えることだね」と松本のまちづくりに関わった学生は言う。

将来地域を担う若者を育てるためには、学校で地域の素敵な大人と出会い、地域を担う「心」を学ぶ必要がある。学生たちは地域の中で「こんな人になりたい」と感じた経験を殆ど持たない。一人より十人、十人より百人と出会うことができる教育を具体化したい。

さらに高等教育段階で、地域から流出する農家、商店、旅館、中小企業の二男や三男、兼業農家の子弟を地域の担い手に育てる実践的な専門教育を大学等と連携して取組みたい。
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#7 「ヒト」の集積を

大南信也・グリーンバレー理事長(徳島)

過疎の故郷をどうにかしたい。そんな思いで30年近く自分なりの挑戦を続けてきました。最初は町にあるもの(自然など)を生かそうと。でも展望は開けませんでした。

町に変化を呼び起こしたのは、国際芸術家村を作ろうと1999年に始めた現代アートのプログラム。年を追うごとに注目を集め、「神山で何かをしたい」と創造を担う人たちの集結が始まりました。

こうして集まった「面白い人たち」が新たなコンテンツとなって、また新たな「面白い人たち」を呼び寄せる。そんな連鎖や循環が現実のものとなってきました。地域振興には「ヒト」「もの」「カネ」すべてが必要です。しかし後の二者は不可欠とまでは言えないと思います。

あらゆる可能性に挑戦する「ヒト」の集積こそが、永続的な変化を地方に生み出し、地域振興を可能にする絶対条件だ、と。「ヒト」をコンテンツとする町。答えを焦らず磨くことで、きっと未来の方が町に近づいて来てくれると信じています。

イン神山
http://www.in-kamiyama.jp/


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#6 モラルと郷土愛の教育を

真渕智子・伊香保おかめ堂本舗取締役(群馬)

地域社会の振興に重要なのは、何よりもまず「教育」と考えます。

ここで言う「教育」とは、一、人としてのモラルや倫理観を身につけること。二、郷土愛を育むこと。三、生きるための知識と技術を習得すること。をさします。

戦後、高度成長期を経て、私達は長いこと「いい大学を出て、大企業に就職し、高い給料を得て、大都市の一戸建てに住む」というようなひとつの価値観に支配され続けてきたように思います。その価値観こそが多くの子ども達を大都市に送り込み、そこから生まれたヒエラルヒーからこぼれたものは、駄目なもの、不適格なものとして扱ってきました。「教育」は必ずしも地域振興に即効性は無いのかもしれない。けれど、10年後20年後の地域振興にとっての大きなマグマになると確信します。「歌の町」という童謡をご存知ですか。よい子が住んでるよい町は、皆、自身の町や仕事に誇りを抱き、隣人や自然を愛し、楽しく暮らしているのです。


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#5 行政は外部からの人材登用を

吉成信夫・県立児童館いわて子どもの森館長(岩手)

行政経営、顧客サービスといった内側からの意識改革が役場で行われつつありますが、その効果を待つ余裕が地域にはありません。今こそ創意工夫に満ちた事業開発が必要です。今、行政に不足しているのは、地域の人々のフツーの暮らしへの共感に軸足を置きつつ、問題を発見し解決の方向性を提示する能力に優れた、リスクを恐れない事業プロデューサー型の人材登用ではないでしょうか。

私が強調したいのは、実際の現場指揮官である課長クラスを5人10人と複数役場に入れること。つまり外部からの人材登用を大胆に図ることです。一人では組織内の同質化圧力に負けてしまいます。特任でも期間限定でもいいから一定数混ぜること。予定調和を前提にしない自由で真摯な論議をまき起こすこと、です。

都会であてのない競争を続けることから降りて、家族で移住して新たなキャリアを開拓したいコンサルタントや企業人、研究者を列島中の県や市町村職員に引きずり込むのです。

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#4:しっかりせよ、リーダー

舩木上次・萌木の村株式会社社長(山梨)

田舎に生まれ育ち、ふと振り返ると、最近なんと住みにくい社会になったのかと嘆きたくなる。次から次へ規制を作り、地方の人達から自由を奪い、考える力をドンドン劣化させ、心の力・目の力を失った人が増えて来ている。毎日、新聞やテレビで世の中を憂いていますが、一番いけないのは、リーダーとなるべき人達が志を失ったことではないでしょうか?!社会の基本となるべき人達が壊れていることが一番の問題でしょう。“手段”が“目的”になっていることを自覚しなければいけないと思います。

規制がとにかく多すぎます。なぜ田舎のおいしい地下水に塩素を混ぜないと飲んではいけないのですか?!なぜ牧場の絞り立ての生の牛乳を買って飲んではいけないのですか?!なぜ大工さんの匠の技で和風の家が造れないのですか?!人はもっと人生を大切に生き、命あるあいだは少しでも構わないので人の役に立つ行いをして、楽しい人生を送りたいものです。

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#3:地域社会を意識した学校教育の充実を

吉井仁美・八戸市水産科学館館長(青森)

地域振興の主役はそこに暮らす住民であり、その原動力は住民の意識であると考えます。行政が出来る事、民間が出来る事、その重なりが地域力になるのではないかと考えます。しかし、地域の方々が本当に困って「何とかしたい」と強く思わなければ、行政がどの様な施策を打ち出しても結果を出せるものではないと考えます。

全ての事柄は人間あっての出来事です。地域に誇りを持ち、問題解決へ根気強く取組み、皆と仲良く生活できる大人としての自覚を持った人々が地域社会の振興には不可欠と思います。そのため何よりもしっかりとした意識を持った人を育て続けるが大事になります。

そこで、長期的な計画として地域社会を意識した学校教育の充実を図ります。就業体験を通し働くことの厳しさ、楽しさを実感し、伝統文化に触れ郷土への愛着を感じる事の出来るカリキュラムを作成し、地域社会の生活に密着した子供自身の人間力の向上に努めたいと考えております。

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#2:子育て環境整備を

山崎美代造・とちぎインベストメントパートナーズ前社長(栃木)  
何より未来を担う人づくり、なかんずく、子育て環境整備が必要である。 人がいない地域では、発展可能性がない。 これからの地域の問題点は、高度成長時代等に造った公共施設は勿論、人がいなくなった荒廃する農山村をどう維持していくかだ。 高齢化・過疎化は急速で、税金を納める人がいなくなる。 地方財政が維持できなくなり、地域が崩壊する。

その解決策は、若い人が集まる条件整備の他ない。 その1つ目は明日を担う人づくりのための保育、教育と住環境の整備。 2つ目は、地域で働く場作りだ。 そのためには地方の主産業である農林業の企業化と中小企業の活性化だ。 具体的には農林業は経営と資本・所有(農地)の分離による経営能力のある者が農業経営をやる仕組みづくり。 中小企業育成はオンリーワン技術企業の育成と地域の立地条件にあった企業起しと誘致である。 こうすれば就業機会ができ、人が定着して、過疎化防止と地域的活性化につながる。

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#1:郷土を思う心を育てる教育を

藤波匠・日本総合研究所主任研究員(東京) 

私は子供達に、「あなたは地域にとって不可欠な存在である」ということを刷り込む教育を行いたい。地域学習に始まり、部活、地域活動を通じ、郷土とのつながりを説き続けるのです。地域が持続的であるには、より多くの若い力が必要です。一旦は進学や就職で地域を離れた若者も、いつかは戻り地域のために活躍してもらうための教育を実践すべきです。

わたしは、若者が持つ新たなものを生み出す力に期待したい。知識と経験をつんだ若者が、家業を継いだり、事業を興したりすることが、内発的な地域発展をもたらすのだと信じています。そのためにも、郷土を思う心を育てる教育が何より重要だと思っています。


(47Newsを抜粋編集)