ASEANは政治の安定を。糠谷英輝

留意すべきASEANの政治動向
2017/8/17  NKを抜粋編集

 アジア通貨危機から20年が経過し、東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国では危機対応が進んだ。域内諸国は堅調な経済成長を続け、経済に問題はない。課題は政治にある。

 主要国のタイでは軍政下でタクシン派と反タクシン派の分断が続き、新国王も政治への関与を強めつつある。民政への転換も見通せない。

マレーシアではナジブ首相の汚職問題が晴れない一方、イスラム化が進む方向にある。

 インドネシアでは、ジャカルタ州知事選を契機にイスラム主義を強硬に唱える一派が力をつけた。政治目的での宗教の利用であるにせよ、多元主義と社会の調和が脅かされている。

フィリピンではドゥテルテ大統領がこれまでの政策を一転。親中・反米政策を進め、ミンダナオ島ではイスラム過激派との戦いを繰り広げている。

 域内で最も安定していたシンガポールでも、国民の経済格差に対する不満が高まる。シンガポール初代首相の故リー・クアンユー氏の遺言を巡る、リー・シェンロン首相と家族の争いも影を落とす。

 政治状況の安定は海外から資金を導く前提条件である。ASEAN諸国の経済成長は外資が主導した面が大きく、政治の安定が持つ意味は大きい。アジア通貨危機後の経済成長は国内の格差問題なども生んだ。経済成長の過程で生じる問題であるが、それを解決するのは政治であり、対応を誤れば社会不安の激化が避けられない。

 地域に大きな影響を与える米国と中国の間にも緊張が増している。また域内諸国と両国との関係も不安定だ。経済が成長したASEANも政治面では未成熟な民主主義にとどまる。政治が経済を傷つけることに留意が必要だろう。

(広島経済大学教授 糠谷 英輝)

【※】アジア通貨危機(Asian Financial Crisis)
1997年7月よりタイを中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落)現象。

東アジア通貨危機「マレーシアの独自路線」 〜 竹下雅敏 【3+】

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