ユーグレナ社 出雲充(みつる)。こち亀、ドラゴンボールから着想
2017/5/13 NKを抜粋編集 リーダーの本棚
東大発ベンチャーの旗手。ミドリムシ企業を生んだ原動力は2つの超大作コミックにあった。
両親も私も活字中毒です。父は歴史小説が大好きで、本が部屋を埋め尽くしていた。充実度は近所の書店以上でした。小学生のころは子供向けの伝記や漫画版の日本の歴史、そして漫画にたどり着きました。
「こち亀」との出合いは50~100巻の時代。急にベンチャーや企業再生の話になるんです。駄菓子屋を両さんがプロモートするとか。
両さんが釣り糸にスルメを付けて大量のザリガニを釣る話が85巻にあります。私も小遣いを稼ごうと弟と池に行きました。スルメでもポッキーやイチゴでもだめで、割けるチーズを使ったら何十匹と集まった。チーズから低分子のアミノ酸が溶出して触覚を刺激するわけですが、当時は分からない。でも漫画をまねして手を動かし、面白い体験をしました。
全200巻、言い訳が1コマもない。お金や学問やコネがないからできないと決して言わない。起業家に一番必要な態度じゃないですか。ユーグレナを創業して500社回っても受注ができず落ち込んだときに読み「そんなこと言っても仕方がないな」と元気になった。伊藤忠商事から提携話が来たのはその直後です。
ミドリムシのヒントは『ドラゴンボール』の8巻に出てくる仙豆(せんず)です。1粒食べれば10日間空腹にならない。魔法の豆を探した先に、植物と動物の59種類の栄養素が入ったミドリムシがありました。
漫画と活字の本に違いを感じないか? 難しいことを聞かれますね。子供時代から全く同じ存在です。
難局を頑張り抜いた経営者の伝記に自らを重ね合わせる。
会社が鳴かず飛ばずのときに、自分より大変だった経営者はいないかと探して、ヤマト運輸の小倉昌男さんの本を見つけました。「宅急便」がないときから国の規制と闘って道を切り開いた。その経験と哲学を自分自身で書かれているところにすごみを感じました。
周辺の本も勉強して出合ったのがリコー三愛グループの創業者である市村清さんの伝記『茨と虹と』です。最初からめちゃくちゃです。佐賀の本当に貧しい家で仲良くした牛を奪われたときの悲哀。病気をマラソンで克服し、上海で上役の横領容疑をかばって監房で暮らす。その人が戦火を乗り越え、リコーという光学系で断トツの技術の会社を率いていく。技術を社会に還元するという意味でも、いまの仕事にとって非常に勉強になります。二人の話に「ああ、自分は本当に大変じゃないな」とつくづく思いました(笑)。
大学1年の時、バングラデシュへ。マイクロファイナンスを発案したユヌス教授と出会う。
尊敬する先生からいつも勇気をもらっています。私にとって最大のメンターであり、神様のような存在です。ユヌス先生の自伝は私の一番の座右の書で、何回も読み返しました。第7部の40章で「この壮大で、狂った、正気とは思えない、不可能な夢を現実のものにしよう! 私たちは貧困なき世界を作ることができる!」という言葉は暗記してたびたび思い出しています。
「Have fun」、楽しくないとダメ。これが先生の決めぜりふです。大変なときだけでなく、楽しかったときや良い発表ができたときにも自分を勇気づけるために読みます。今年77歳になるのに満足せずにすべてを懸けてまだ頑張っている。私の会社はまだ総勢約250人。慢心したり油断したりなんて、ユヌス先生が生きている限りはありません。
米航空宇宙局(NASA)の技術者が高校時代、友人と4人でロケットを飛ばそうと夢を追いかけた『ロケットボーイズ』も好きです。04年に米バブソン大学の集中プログラムに1カ月参加した時のテキストで、本のエピソードから体験談を学生同士でシェアしました。今でも壁に突き当たったときに読みます。
速読で年に200冊は読みます。好きな本は擦り切れるまで何回も。石垣島の工場に年に二十数回行く際の往復3時間半のフライトで4冊。新幹線や飛行機も読書の時間です。
皆さん、読書に効率や目的を求めすぎでは。それでは新しい本を読まなくなるでしょう。全然関係のない、遠くにあるものに、本という形ですぐ接することができる。それが本の一番の価値だと思います。
(聞き手はコメンテーター菅野幹雄)
いずも・みつる 1980年生まれ。東大在学中にバングラデシュで食料問題に接し、銀行勤務を経て05年にユーグレナを設立。ミドリムシ大量培養に成功した。
出雲充 wp
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