「旅」とは、旗の後ろに多くの人がつき従うさま

「旅」とは、旗の後ろに多くの人がつき従うさま
2017/5/7付nkを抜粋編集

 私(阿辻哲次 )とて、旅行はきらいではない。旅先ではその土地の珍味や銘酒を味わえるし、素朴でおだやかな人情に接することも多い。何よりも旅先では普段の生活からは得られない素敵な発見があって、日常に埋没している自分を外側から見直すことができる。

 はるか昔の旅は、今とはまったく意味がちがう行動だった。「旅」とは何かの必要があっておこなわれる移動であり、それは苦難に満ちており、決して楽しいものではなかった。

 今の漢字辞典は「旅」という漢字を四画の《方》部に収めるが、「旅」は「旗」や「族」「旋」などとともに、もともとは《●(ほうへんに人)》(音読みはエン)という漢字によって意味をあたえられていた。

《●(ほうへんに人)》は旗竿(はたざお)の先にとりつけた吹き流しが風にひるがえっているさまを表す漢字で、「旅」はそんな旗をもった人の後ろに多くの人がつき従って行進しているさまをかたどっている。旗は軍旗で、行進しているのは兵士である。

つまり「旅」は戦争に出かける兵士の集団を意味する文字で、古い文献によれば、兵士五百人の集団を一「旅」と呼んだ。かつての日本軍で使われた「旅団」ということばはまさにその意味で「旅」を使っている。

( 阿辻哲次  漢字学者)

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