- 資金源が自らの事業である為、柔軟でスピーディーな事業展開が可能
- 自社の利潤の最大化ではなく、使命の達成を最優先
貧困解決の事業手法、高齢化対策にも有効 ノーベル平和賞受賞のムハマド・ユヌス氏に聞く
- 2012/7/25付
- 日本経済新聞 朝刊
- 912文字
貧困層の経済基盤づくりへの貢献でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏は24日、都内で「社会問題にビジネスの手法で取り組むソーシャルビジネスは新興国ばかりでなく、先進国でも有効だ」と語った。欧州で深刻化している失業や日本の高齢化問題には「ソーシャルビジネスをもっと活用し、政府の補助に頼るのを減らした方がよい」と指摘した。
――通常の企業活動との違いは何ですか。
「貧困、失業など社会問題解決のために、政府の補助や民間の寄付に頼るのではなく、経済性を基本にした事業の手法を用いるのが、我々のやり方だ。事業資金は回収し、次のソーシャルビジネスへの投資に充ててゆくが、通常のビジネスのように利潤を上げ出資者に配当することを目標にするのではない」
――一種の非営利組織(NPO)ですか。
「NPOは寄付などを元手に事業をするのが主な仕事。ユヌス・ソーシャル・ビジネスは事業による売り上げを元に次の仕事を展開していくので事業の継続性がある」
――どの程度の広がりがあるのでしょう。
「私の母国バングラデシュには、グラミン・グループの50余りのソーシャルビジネス・カンパニーがある。日本のファーストリテイリングやワタミ、仏ダノン、米インテルなど、様々な国の企業と合弁で事業を展開している」
――利潤追求が目的の企業と一緒にできますか。
「合弁により先進国の企業が持つ技術を生かせる。社会的責任を重視する大企業にとっても、共同事業は目標にかなう」
――先進国でも意味があるのでしょうか。
「社会問題が存在する限り、ソーシャルビジネスは役に立つ仕組みだ。例えば失業が深刻な欧州。現状では失業者は政府の補助に頼るほかない。財政負担が増すばかりで、職に就けない人々の社会的な不満も強まっている。利益を目標としないソーシャルビジネスの手法を活用することで、人々に働く場を提供するのが望ましい」
――日本の場合は。
「日本は高齢化が進んでいる。65歳など一定の年齢で定年になるが、80歳になっても元気なお年寄りは多い。それらの高齢者が働く舞台として、ソーシャルビジネスは役立つ。課題に応じた仕事を考えるべきだ」
(聞き手は編集委員 滝田洋一)