citrus 旅行コラムニスト 森川孝郎 2017.01.24
■活気のある商店街と統一感・清潔感のある街
先日、街のシンボル「時の鐘」の、およそ1年半にわたる耐震化工事が完了した埼玉県川越市を訪問してきた。私は川越周辺で育ち、県立川越高校の卒業生なので、川越を離れた今も、この街には愛着がある。
工事期間中も、メディアの取材等で何度か訪問し、工事用の足場と覆いに囲まれた「時の鐘」を目にしたが、やはり「時の鐘」が見えない川越の空は、寂しいものだなと思った。
つい先日、1月9日には工事完成記念式典が執り行われ、昨年3月より休止していた、1日4回の「定刻の鐘つき」がおよそ10ヶ月ぶりに再開された。ちなみに、夜間ライトアップは昨年末から再開している。
ところで、訪れる度に感じることだが、並いる観光地の中で川越の「街づくり」は上手くいっているなと思う。顕著なのが、商店街にとても活気があることだ。
川越の商店街は大ざっぱに分ければ、川越駅周辺の新しい商店街「クレアモール」と、伝統的な「蔵造り」の街並みを活用した「一番街」商店街がある。
クレアモール商店街
まず、「クレアモール」のほうは、私の幼少期の30~40年前は、「サンロード」と呼ばれ、地元の老舗百貨店「丸広」のほか、「丸井」川越店や「長崎屋」川越店もあった。
現在、大型店舗で残るのは「丸広」のみとなったが(駅に隣接する施設として、JR・東武川越駅に「アトレ」、西武本川越駅に「ぺぺ」はある)、地方商店街によく見られるシャッター商店がほとんど見られない。地元の小売店舗が元気なのは、むしろ良いことなのではないか。
蔵造りの町並みが残る、一番街
新しい商店街が栄えれば、古い商店街は衰退しそうなものだが、「一番街」のほうも、元気があるように見える。そして、川越旧市街を訪れて感じるのは、街並みに統一感・清潔感があることだ。
アレックス・カー氏の名著『ニッポン景観論』を持ち出すまでもなく、日本の街は一部の例外を除けば、空を見上げれば電線が張り巡らされ、街中だけでなく郊外の道路沿いにも"色彩のテロリズム"とも言うべき、統一感のない色とりどりの看板が溢れかえっている。
その点、川越は電線が地中化され、古い街並みがよく保存されているのみならず、明治の大火後に建てられた「蔵造りの町並み」、モダンな雰囲気の建物が多数残る「大正浪漫夢通り」、そして昭和の風情が残る「菓子屋横丁」など、エリア毎に個性を持った景観保存がなされているのも面白いと思う。
■川越の街づくり成功の理由
とはいえ、このような街づくりが努力なしに成った訳ではない。
詳細は、下記の資料によくまとめられているので譲るが、戦後、市の中心が駅周辺に移動したことで、「一番街」周辺は活気を失った。
しかし、1971(昭和46)年に川越で一番古い蔵造りの家「大沢家住宅」が国の重要文化財指定を受けるなど、1970~80年代にかけて伝統的な街並みの価値が見直されるようになった。
これを契機に、中長期的視野に立った街づくりの枠組みをつくり、早い段階で建築をはじめとする専門家の意見を取り入れたことが、成功に大きく寄与したという。
ちなみに、川越は電線類地中化事業を1992年9月に完成(1991年2月着工)し、国の重要伝統的建造物群保存地区の指定を1999年12月に受けている(全国54番目)。
歴史的街並みを生かした商店街の活性化(PDF)
■上手くいっている川越にもある課題
近年は、「時の鐘」や「蔵造りの町並み」と並ぶ、重要な観光資源である「川越城本丸御殿」の保存修理工事を2011年に終えるなど、観光都市として「やるべきことをやっている」という印象の川越市だが、まだまだ、課題もある。
一部の道路では、増えた観光客に対して歩道が狭いため、車で走っていると溢れる歩行者と接触しそうな危険を感じる場所がある。
また、街を訪問しての全体的な印象としては活気があると感じられる川越の商店街だが、本川越駅周辺と「一番街」をつなぐ「中央通り」沿道などは、商店街の衰退が著しく、これに対処するために土地区画整理事業を行っている。
さらに、交通の面では、市内を運行し観光にも使える「循環バス」が、実際に利用しようとすると使い勝手が悪く、改善の余地があるように感じる。
中央通り沿道街区土地区画整理事業/川越市
なお、これは「観光立市」を掲げる都市には共通の話だが、観光客だけを相手にする商売というのは、長続きしない。
どこの観光地に行っても、本当の意味で上手くいっているのは、地元民にも愛され、地元商店として存在価値を発揮している店だろう。
そういった商店を大事にし増やしていくことが、地域住民・観光客双方の満足度向上にもつながる。川越のみならず、日本の観光地の今後の課題ではないだろうか。
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