訪日客、地方へGO 東京・大阪・京都だけじゃない
誘客へ自治体知恵比べ
2016/9/5付nk 編集highlighter
訪日外国人の滞在先が多様化している。外国人観光客の定番コース「ゴールデンルート」にある東京都、大阪府、京都府の外国人宿泊数が2015年に4年ぶりに5割を切った。大都市からの日帰りではなく、宿泊して地域の魅力を味わう外国人が増えており、外国人を取り込もうとする自治体の知恵比べが激しくなっている。
岐阜県は地元で盛んな「地歌舞伎」を海外でもアピール
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観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、15年の外国人宿泊数は14年より46%増え6561万人泊になった。このうち「ゴールデンルート」の1都2府は37%増の3110万人泊だった。
宿泊数で逆転
これに対し1都2府以外の宿泊数は56%増の3451万人泊。全体に占める割合は53%と14年より4ポイント増え、07年の調査開始以来、最高水準になった。16年1~6月も1961万人泊で全体の54%を占め、前年同期より1ポイント増えた。
15年の国籍(地域籍)が把握可能な6051万人泊を見ると、中国からは1629万人泊で前年から倍増。台湾が1049万人泊で32%増加し、韓国は55%増の674万人泊だった。タイやシンガポールなど東南アジア6カ国からは623万人泊で25%増えた。
全国の国別割合では中国からが27%でトップだが、地域ごとに違いが見られる。504万人泊と前年より64%増えた九州は韓国が38%を占める。高速船で福岡に入り、別府などの温泉地を巡るのが定番で、韓国の割合は前年から2ポイント増加した。
九州で増えているのが東南アジアからの観光客だ。佐賀県フィルムコミッションがタイの番組制作会社などにロケを働きかけたことが奏功。タイで14年に公開された映画や15年に放映されたドラマの舞台となりロケ地巡りのタイ人が急増した。
ロケ地となった祐徳稲荷神社(佐賀県鹿島市)ではタイ語のおみくじを用意するなど受け入れ体制の整備も進む。佐賀県の15年の外国人宿泊数は19万人泊と前年の2倍強に増えた。
熊本地震の影響で九州全体の5月の外国人延べ宿泊数は前年同月比29%減少したが、6月はほぼ前年並みに回復した。
中部では中国の割合が46%と圧倒的。これは静岡空港と中国の地方都市を結ぶ格安航空会社(LCC)の直行便が増えたことが一因だ。静岡県だけを見ると中国人は外国人全体の70%を占めた。
静岡、長野、滋賀を含む中部・北陸9県は12年に9県の名所など域内を結ぶ観光ルートを設定し、「昇龍道(しょうりゅうどう)プロジェクト」を立ち上げた。海外での知名度向上を目指している。岐阜県は地元で盛んな「地歌舞伎」を保存会の協力で海外で披露。「知名度が高い飛騨高山や白川郷に続く観光資源として海外でも売り込んでいきたい」(県観光誘客課)と意気込む。
和歌山県は世界遺産の高野山や熊野古道には欧米、南紀白浜周辺の海や温泉リゾートにはアジアからの客が多い。県は担当職員が年30回ペースで世界各地の旅行博などに出張。海外のメディアや旅行会社を招くツアーも年50回程度に達し「これだけ行う地域は珍しいはず」(県観光交流課)という。
秋田犬や自転車
東日本大震災で落ち込んだ外国人宿泊数は15年には震災前の10年の2.4倍となったが、東北6県は同5%増にとどまる。観光庁は著名人が登場する動画や海外向けサイトの計画など東北に絞った誘致に乗り出した。
青森県は東南アジアで冬は八甲田山の樹氷やスキー、ストーブ列車を、夏は田舎館村の田んぼアートなどを売り込む。秋田県大館市などはグーグル日本法人と組み海外でも人気の秋田犬の動画をネット配信する。
東北では台湾からが34%とトップだが、四国でも台湾は3割を超す。雪が人気の東北に対し、四国は愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶ「しまなみ海道(西瀬戸自動車道)」の自転車ツアーがけん引役だ。台湾の自転車世界最大手ジャイアントが12年にJR今治駅構内に出店。しまなみ海道の風景を自転車で楽しむ観光客が増えている。
中国地方では3割強を欧米やオーストラリアからの観光客が占める。お目当ては広島市内の原爆ドームや宮島などだ。オバマ米大統領が広島を訪問した16年5月には中国地方の外国人宿泊数は前年同月比52%、6月も19%増えた。
16年も訪日外国人の宿泊数は順調に伸びているが、中国人による「爆買い」はかつてほどの勢いはない。東南アジアなど他の地域を照準に誘客に乗り出す自治体が増えており、滞在先の多様化は今後も進みそうだ。
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