女性が拓く(2) アリヤ・ジュタヌガーン。タイ人初プロゴルフ・メジャー制覇
2016/9/15付nk,highlighter
白いボールが1メートル先のカップに吸い込まれた。7月31日、全英女子オープン最終日の18番ホール。アリヤ・ジュタヌガーン(20)が2位に3打差をつけ、男女を通じタイ人初のメジャータイトルをつかんだ瞬間だった。
頭をよぎったのは4月の大会だ。終盤に崩れ、初優勝を逃した。「あの失敗から学んだことは大きかった」。意志の強そうな目を真っすぐこちらに向けて言った。
回り道は無駄ではなかった。米ツアーで翌5月の初優勝から3連勝を飾り、全英も制した。9月12日時点の世界ランキングは2位。頂点はすぐ手に届くところにある。
サクセスストーリーの原点は一家の挫折だ。父のソンブーン(64)が営んでいたデザイン会社が1997年のアジア通貨危機で倒産。家族を養うためバンコク近郊にゴルフショップを開いた。
仕事の邪魔にならぬよう5歳のアリヤに遊び道具としてゴルフクラブを与えた。ボールを打たせると誰より遠くへ飛ぶ。父は家や車を売って2千万バーツ(約6千万円)をつくり、練習費に充てた。「俺は全財産を懸けた。未来はおまえの手にある」。そう言い聞かせた。
ゴルフ場ではレストランでくつろぐ他のプレーヤーから離れ、従業員用食堂で節約した。友達と遊んだ記憶はない。アリヤは「つらくはない。世界のトップ選手になる夢があったから」と話す。
2007年、タイで開催された米女子プロゴルフ協会(LPGA)ツアー大会に史上最年少の11歳で出場し、注目を浴びた。17歳でプロに転向し、ケガを克服してトップ選手に仲間入りした。
アリヤを先頭に女子ゴルフ界は今やアジア人が席巻。世界ランク100位以内に58人が入る。その数は男子の6倍だ。男子とは違って欧米人との体格差が小さく、活躍しやすい素地がある。
うち40人を占める韓国勢の躍進は、98年に全米オープンを制した朴セリ(38)の登場がきっかけだった。前年のアジア通貨危機でどん底を経験した韓国。政府は朴セリがはだしで池に入り、水底のボールを打つ場面を使って「第二の建国」を訴えた。彼女に憧れてゴルフを始めた「セリ・キッズ」が今の世界ランク上位に顔を並べる。
タイもアリヤを国威発揚に使う。テレビはその成功物語を連日放映。プラユット首相は「国民はアリヤの姿勢を見習え」と鼓舞する。スポンサー契約した素材大手サイアム・セメント・グループの事業ブランド経営室長ウィーナット・アサワスィティタウォン(53)は「世界でブランドイメージを向上したい」。子供向けゴルフ教室には加入希望者が殺到している。
06年、14年と軍事クーデターが続き、国全体を閉塞感が覆うタイ。海外で成功したヒロインに熱狂し、夢を投影する姿は、苦境をバネに世界へ打って出て国力を再興したかつての韓国に重なる。それは成長減速に直面する今後のアジアが目指すべき道を示唆している。
アリヤ・ジュタヌガーン「私の勝利でタイの子どもを奮起させたい」
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女子プロ世界一 アリア・ジュタヌガーン Ariya Jutanugarn のパワフルショット 【+2】
アリア・ジュタヌガーン You Tubeリンク
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