命がけで”武士”を演じる本多忠勝 <藤岡弘、「真田丸」

命がけで”武士”を演じる本多忠勝 <藤岡弘、「真田丸」
「真田丸」藤岡弘、“ほれ込んだ”本多忠勝役を語る!
ザテレビジョン 2016年9月23日、highlighter

(c)nhk
大河ドラマ「真田丸」(NHK総合ほか)2016年9月18日放送では、関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康(内野聖陽)が天下を握り、昌幸(草刈正雄)・信繁(堺雅人)は第二次上田合戦に勝利したものの、徳川に屈することに。

真田信幸(大泉洋)は、家康に二人の助命を嘆願しに行くのだが、そこで共に家康の説得に当たったのが義父・本多忠勝(藤岡弘、)。自らの命を懸けた忠勝の気迫に、家康も真田親子の処刑を諦めるしかなかった。

そんな本多忠勝役の藤岡弘、を直撃。かねてファンだったという忠勝役を演じた思いを存分に語ってもらった。

――まずは忠勝役のオファーが来たときの感想を教えてください。

僕は本当に忠勝にほれ込んでいて、忠勝の文献を読みふけって、当時過ごした城まで行って彼の足跡を探求していたほどです。それが今回、忠勝を演じてほしいと、それも三谷(幸喜)先生のたっての願いと聞いて、これはもう忠勝が呼んだのかなと思いました。

――とても強い反面、心優しい男として描かれていますが、藤岡さんはどのように今回のキャラクターを捉えていますか?

忠勝は57回戦って無傷だったと言われているのですが、彼は先陣を切って戦い、しんがりも務めるという人。それで無傷だったのは忠勝だけの力ではなくて、部下たちが忠勝だけは絶対に失いたくなかったのではないか。先日、忠勝の鎧を見る機会がありましたが、年季が入っていて、何度も戦場に行ったのは伝わるのですが、たしかに傷が少ないんです。忠勝のためなら命を捨てても守りたいという部下たちが、彼を必死に守ってきたのではないかと思わざるをえない。

それに強い部分だけでなくて、人間臭くて、誰に対してでもわけへだてなく人を心から思いやる慈悲と人情があった、そうあってほしいと心に願いながら演じました。

――作中でたびたび「乱世でなければ生きられない男」というせりふがありますが、忠勝は違うと思いますか?

忠勝は、戦が大好きというわけではなかったように思うんです。数珠を下げていたのも、人の悲しみや痛み・苦しみを痛ましさと哀れみの心で感じていたのではないか。相手の気持ちを分かろうと努力し、敗者や弱者の気持ちに寄り添い、考えていくような心情が、数珠に現れているというふうに想像しています。

――9月18日放送の家康への嘆願シーンが見せ場となりましたが、演じてみていかがでしたか?

三谷先生があのように描いてくれて、本当にうれしく思います。「この作品に出演して良かった。これを僕は伝え、演じたかったんだ」と思いました。時代は違いますが、このような忠義に生きた真の侍の生きざまを持った人が、今の時代にこそ、いてほしいなという願いを託して演じました。

侍の決意・決断・覚悟・信念は、ああいうときにこそ命懸けで見せるもののふの姿。義のためには己の命をささげても惜しくはないというのが真の侍ですから、そういうものをぶれることなく貫き通した忠勝に、僕はほれています。自分の私利私欲のためではなく、次の未来のために自分をささげる自己犠牲の精神でもある侍魂、親子や一族の絆の深さや血統を命懸けで守る姿勢を伝えたかったという面もあると思います。

そして、家康はそれを理解することのできる器だと信じた上で言っているんですね。もちろん、見込み違いであれば、その後のことは覚悟しているのですが、あれほどの男が仕えたということは家康には大きな器があったんだろうと思います。忠勝も、家康なら争いのない太平の世にしてくれると思い、そのロマンに懸けていたのではないでしょうか。

――緊迫したシーンだったかと思いますが、本番は一発撮りだったのでしょうか?

僕は俳優生活51年になりましたが、厳しい諸先輩の中で鍛えられて来たので、絶えず一発勝負です。リハーサルでも「台本なんか持ってきちゃいかん!」と教わって育ちましたし、「台本を何十回、何百回も読んで想像しろ」と言われてきました。時代は変わりましたが、あの緊迫感、緊張感をもって一発で撮り切りたいですね。

これは余談ですが、僕は心に乱れがあると自分の道場で真剣を振るんです。真剣は、ちょっとでも心に乱れがあると、手や指を切り落としかねない。だからいつも、体の中心をとり、身も心を引き締めていないといけない。夜、ろうそく一本の明かりで居合いをやっていると「昔の侍も、すべて一瞬一瞬に命を懸けたんだな。あわてることも騒ぐこともなく、そこに集中していたんだな」という侍の心構えを感じます。

――今回、忠勝を演じるに当たって準備されたことはありますか?

忠勝と言えば、蜻蛉切(とんぼきり)という長やり。やりの心得はありましたが、特殊なものなので、あらためて準備をしていました。ただ、よろいを見た限りでは、忠勝はあまり大きくなかったはずなんです。それであの長やりを振り回していたのだから、相当の胆力と剛力だったのだなと思います。

でも、よろいをよく見ると、肩を回すのに邪魔になるようなものは外してあったりして、たしかにスリムで実戦的な作りになっているんですね。角の付いたかぶとも重そうですが、実は紙を使った特別な作りと聞いて納得しました。そうやって実際のものを体験すると、これまで見えていなかった忠勝像がよく見えてくるので、想像するとそれが楽しいですね。

――もしも忠勝に会えたら、どんな話をしたいですか?

やはり当時の侍の生きざまを聞きたいですね。なぜ、絶えず先陣を切って戦ったか。なぜ、徳川家康に仕えて、彼だけに忠義を尽くしたか。どういう思いを持っていたのか、本音・本質の部分を聞いてみたいです。

私が読んだ資料が正しければですが、寝返りも裏切りも当たり前の時代に、そうしたこともせず、戦の後は敗者をいたわって、家康には相手を召し抱えることまで勧めています。まさに武士道精神を命懸けで体現した人物なんですよ。

――主演の堺雅人さんを、どんな思いでご覧になっているか教えてください。

僕が楽しみなのは、成長していくことですね。若い俳優さんは、一本のドラマが始まって終わるまでに、ぐっと幅も広くなるし厚みも出る。そういう部分がじわじわと見えてきて楽しいですね。

堺さんに限らず若手の皆さんですが、この作品に出ているのは、これからの映像界を背負う人たちですから、真の侍像を残してほしいですね。日本の映像界は、侍のドラマがなくなったら終わりです。先人たちの多くの犠牲の基に今の日本があって、我々が生きていることを決して忘れてはいけないと思います。

でも、優秀な皆さんが支えてくれれば安心ですね。僕はあんなに優秀ではなかったですし、人の何十倍も努力し続けなければ生きてこられなかったのですが、皆さん、すごく反応が良くて驚かされます。今後が楽しみですね。是非、日本の未来を背負ってもらいたい。

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