転ばぬ先の救命講習。川越救急クリニック・上原淳

転ばぬ先の救命講習 あなたの処置が救う命も。川越救急クリニック・上原淳

2016/9/9付nk抜粋編集

 埼玉県川越市の国道16号沿いに「川越救急クリニック」がある。院長の上原淳さんが6年前に立ち上げた救急病院だ。

長く救急医療に携わり、開業前は埼玉医科大学総合医療センターの高度救命救急センターに勤めていた。

会いに行ったのは、一般の人が救命処置でどんな貢献ができるかを聞きたかったからだ。

 救急医療の層を厚くしたいと上原さんは自ら救急病院を立ち上げた
 *画像の拡大*

救急医療の層を厚くしたいと上原さんは自ら救急病院を立ち上げた
 日本の救急医療態勢はおおまかに1次、2次、3次に分かれる。救命センターや集中治療室などを完備する総合病院は3次。一般的な入院治療ができる病院は2次1次は医師会や自治体などが運営する休日・夜間診療所だ。

 救急医学会に登録する医師は約3600人。不足しているといわれる産婦人科医、小児科医(各約1万4000人)よりも少ない。救急医の半数は3次病院の救命センターに在籍。2次病院で急患にあたるのは1000人に満たないとされる。このため、埼玉医大の救急センターにも軽度、中等度の傷病者が搬送されることが少なくない。

 上原さんは2次病院の態勢を厚くすることが課題と考えている。「軽度、中等度と判断されて1次、2次の病院に運ばれる傷病者の中にも重度で緊急性の高い患者がいる場合がある。専門にかかわらず、容体を判断できる経験と能力のある医師が求められている」と語る。

 上原さんの経験では、搬送されてきた傷病者が一般市民に心肺蘇生を受けていた例は2割ぐらい。「心臓が停止しても3分以内に心肺蘇生をすれば蘇生率は50%だが、救急車の到着まで約8分かかる。待っていては助けられない。誰でも臆せず実行してほしい」

 同クリニックは夜間の急患を受け入れるのが基本だが、外来患者も訪れる。ある日、体調不良を訴えて来院した患者がいた。血流を改善する薬を持っていたので既往症を尋ねると、曖昧な答えしか返ってこなかった。

 上原さんは救急時に備えて自分の病歴情報を記しておくよう教えてくれた。

標語は「SAMPLE」。
  Sは「サイン」で現在の症状。
  Aはアレルギーの有無。
  Mは「メディケーション」で服用している薬。
  Pは「past medical history」で既往症。
  Lは「ラストミール」で最後に何を食べたか。
  Eは「イベントまたは環境」で酒やたばこをたしなむか。
こうした情報があると治療の参考になる。

 9月9日は「救急の日」。上原さんは毎年のように救命イベントに協力し、通行人に救命処置の体験を呼びかけている。その理由を聞くと「その日救命処置を覚えた人が、翌日、誰かを救っているかもしれないじゃないですか」。その誰かが自分になることもあると思った。

(この連載は川鍋直彦〈55〉が担当しました)


上原 淳 (著)
日本初の個人救急病院院長が診断! 救急で死ぬ人、命拾いする人 

0 件のコメント: