2018/01/15

世界でなぜ響く 独裁の足音。 玉利 伸吾

世界でなぜ響く 独裁の足音 

編集委員 玉利 伸吾   2018/1/15付 nkを抜粋編集

<  まとめ  視点>

  • X  忖度と服従  X  偽ニュース  
  •  「非常時」、「国難」には平常心を
  • 各人が政治に関心をもつ


 東欧など世界各地で、強権的な指導者が次々に出現している。大衆受けする大胆な政策を打ち出す一方、権力を集中させ、政治的自由や民主主義を脅かす。独裁者が暴走し、戦争の嵐が吹き荒れた20世紀の教訓を忘れたのだろうか。


 1989年、東西冷戦が終わり、東欧などでは政治、経済の民主化が進んだ。しかし、2008年の金融危機以降の経済不振、格差拡大などで、民主制がいきづまる国が目立ちだした。ロシアやトルコなどの強権的な指導者は、一段と権力の集中を進める

 近年、欧州では大量の難民流入で、国民の不満が高まり排外的なナショナリズムが台頭。米国でも、自国第一を掲げるトランプ大統領が誕生し、強硬な外交で国際摩擦をおこしている。影響を受け各国で、右翼政党が勢力を伸ばすなど、民主制をゆさぶっている

 民主制=デモクラシーの危うさは、その原型が生まれた古代ギリシャ時代から指摘されてきた。哲学者プラトンは対話編『国家』で、これほど独裁の危険がある制度はないと警告する。

 自由と平等を基本とする民主制は、強権や独裁とはかけ離れているとおもわれている。だが、国民が自由に好き勝手な生き方をするので、規律を失い、大衆に迎合する危険な指導者が最高権力を手にしてしまう恐れがあるという。なんとも皮肉なメカニズムだ。

 20世紀、警告が現実になる。民主制の中からヒトラーらの独裁者、全体主義者が生まれた。『よみがえる古代思想』(佐々木毅著)は、彼らがプラトンの民主制批判に注目したと指摘する。戒めを生かすどころか、「民主政治をこっぱみじんに批判した」政治的革命家のイメージを広め、利用したという。

 プラトンは独裁をさけるため、「哲人王」を提唱している。哲学者による理想の政治だ。ところが、当時はヒトラーやスターリンらの指導者こそが「哲人王」だとみる風潮さえあった。理想的な指導者が現れたとみて、独裁者を歓迎してしまったわけだ。

 20年代から30年代にかけてのドイツは、史上最も民主的といわれたワイマール憲法を持ち、世界から期待されていた。そんな国民が、ヒトラーに政権をゆだねて、戦争とホロコーストなどの惨禍を招いてしまう。それは、なぜか。

 英国の歴史家イアン・カーショーが、『ヒトラー 権力の本質』(石田勇治訳)で明らかにしている。悪魔のような指導者が、国民を力ずくで破滅に引きずりこんだ。そう考えてしまいがちだが、実際には、国民の多くが、積極的に独裁政権を支えていた

 世界恐慌で政治、経済が混乱し、国家が危機に陥ったとき、国民は仕事や自分の利益などへの関心から、ヒトラーを支持する。宣伝とスローガン、動員などによって、だんだんとカリスマ的な「総統」のイメージに夢中になり、服従を選んだのだという。

 では、どうすれば、あしき選択をふせげるか。英国の哲学者バートランド・ラッセルは市民の意識の大切さを強調している。

 35年出版の『怠惰への讃歌』(堀秀彦・柿村峻訳)で、そのころは、多くの人がヒトラーの全体主義か、スターリンの共産主義かを選ぶしかないと思っていたと指摘。それでも、民主制の伝統が長い英米は独裁を選ばないだろう、と述べている。

 なにより、普通の市民が「公けの出来事は自分に関係があるという気でいるし、自分たちの政治的意見を述べる権利を失いたがらない」。だから、大丈夫だとうけあう。こうした感覚こそが、落とし穴に落ちないための教訓だろう。

 その米国で、教訓を忘れたのではないかとの危機感が募っている。トランプ政権が繰り出す大衆迎合的で、強権的な政策に危うさを感じているからだ。

 米歴史家のティモシー・スナイダーは、今の世界は30年代と共通点があるとみている。警世のために書いたのが、『暴政 20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』(池田年穂訳)だ。

 歴史に学び、独裁を遠ざけるコツをあげる。「忖度(そんたく)による服従はするな」「自分の意志を貫け」「危険な言葉には耳をそばだてよ」。どれも、ちょっとした生活上の注意点だ。

 民主制を守り、独裁に屈しない。それにはまず、各人が政治に関心を持ち、自ら考えることから始めよう、と勧めている。

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【※】
スナイダー  「暴政」(Tyranny)が一国を支配するのを未然に防ぐための20のヒント

(1) 忖度による服従はするな。

(2) 組織や制度を守れ。

(3) 一党独裁国家に気をつけよ。(一党独裁国家にはチェック機構がない)

(4) シンボルに責任を持て(「ユダヤ人排除」というシンボルは、虐殺へと繋がった)

(5) 職業倫理を忘れるな。

(6) 準軍事組織には警戒せよ。

(7) 武器を携行するに際しては思慮深くあれ。

(8) 自分の意志を貫け。

(9) 自分の言葉を大切にしよう。

(10) 真実があるのを信ぜよ。

(11) 自分で調べよ。

(12) アイコンタクトとちょっとした会話を怠るな。(地域コミュニティや友人・知人との微笑や挨拶を絶やさないしよう)

(13) 「リアル」な世界で政治を実践しよう(いざとなったら外に出て行動しよう)

(14) きちんとした私生活を持とう。

(15) 大義名分には寄付せよ。

(16) 他の国の仲間から学べ。

(17) 危険な言葉には耳をそばだてよ。

(18) 想定外のことが起きても平静さを保て。

(19) 愛国者(パトリオット)たれ(愛国者は自らの郷土や家族を守るためには犠牲を恐れない)

(20) 勇気をふりしぼれ。



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