東南アでハブ港争い シンガポール、1強に揺らぎ
産業地図の変化映す nk
2018/1/18 nkを抜粋編集
東南アジアで貨物港の勢力図に変化の兆しが出始めた。ハブ港の座を独占してきたシンガポール港のコンテナ取り扱いが伸び悩み、新たな港への投資が活発なインドネシアやマレーシアとの差が縮まっている。背景にあるのは製造業の拠点分散だ。香港と中国本土の港の間で2000年代に激化したハブ港争いが、東南アジアでも始まろうとしている。
マレーシア南部ジョホール州のタンジュン・ペレパス港。17年11月中旬、高さ55メートルを超すクレーン4機が披露された。船から岸壁に貨物を移すこのクレーンは東南アジアで最も背が高く、大型貨物を扱う能力が高まる。運営会社のカリブ・モハマド会長は「この地域で最先端の港だ」と話した。
同港は00年の開港だが、16年にはコンテナ取扱量で世界19位になった。ビジネス拠点が集中するシンガポールから自動車で1時間弱で、貨物の取り扱いコストはシンガポール港より大幅に安い。関係者は「海洋物流の拠点をシンガポールから移す動きが進んでいる」と証言する。
シンガポールは効率性を武器にハブ港の座を維持してきた。世界銀行によると、輸出手続きに必要な時間は極めて短い。周辺国の港は大型船の接岸能力も乏しく、各地で生産した製品をシンガポールで積み替えて輸出入する方式が定着した。
だが足元で「シンガポール1強」には揺らぎが見える。16年のコンテナ貨物取扱量は中国・上海に次いで世界2位を保つ。だが10年比の増加率は8.6%と、世界全体の取扱量の伸び27.6%を大きく下回る。
東南アジアの貿易額はこの期間に1割強増えた。インドネシアのコンテナ取扱量は53.7%増え、フィリピンやベトナムの増加幅も4割を超えた。東南アジア全体に占めるシンガポールのシェアは10年の40%から34%に低下した。
物流武器に誘致
要因は2つある。一つが製造業の立地多様化。もう一つが国をあげた港湾の整備だ。シンガポールを経由しなくても輸出入ができる体制を整え、物流コストの安さも武器に製造業の誘致につなげる思惑だ。
「24の港を整備し海洋国家を再興する」。インドネシアのジョコ大統領は語る。目玉が首都ジャカルタから100キロ離れたパティンバンで計画する新港だ。周辺にはトヨタ自動車などが入居する工業団地がある。総投資額は30億ドルで、19年にも一部稼働する。
サムスン電子などの大工場が稼働するベトナムでも新港計画がある。政府が主導し、18年の稼働を目指して北部ハイフォンに1200億円を投じる。この港の水深は周辺の既存港より深く、大型船入港が可能になる。
タイでも東部チョンブリ県の港を拡張し、22年までに取り扱い能力を2.3倍に増やす計画が進む。シンガポール以外の各国が今後10年で新増設する港の取り扱い能力の合計は現在のシンガポール港に匹敵する水準だ。
同様の動きは21世紀初頭にも見られた。舞台は「世界の工場」と呼ばれた中国だ。香港はかつて中国のハブ港として本土の港を圧倒したが、コンテナ取扱量は07年に上海に抜かれ、今や深圳や寧波にも後れを取る。工業化の波が中国全土に広がり、地方政府などが近代的な港湾整備を進めたためだ。
中国に続き、工業化が進む東南アジアも同じ運命をたどるのか。だがシンガポールも手をこまぬいていない。西部の工業団地付近で新しい港湾の建設に着手した。20年代前半に新港の運営が始まれば、同国の取り扱い能力は現在の1.5倍に増える。リー・シェンロン首相は「ハブ港としての地位を強める」と話す。
【※】シンガポールの港移転計画 *トゥアス
東南アジアで進む港湾の勢力争いは、産業地図の変化を映す。日本企業の工場立地戦略にも影響を与えそうだ。
(ハノイ=富山篤、シンガポール=中野貴司)
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