タイ新国王、試される求心力 民主化へ課題山積
王室と国民の関係変化も
2016/11/30 nk highlighter
【バンコク=小谷洋司】約70年ぶりの王位継承を経て、タイ王室の新たな時代が始まる。新国王になるワチラロンコン皇太子が父のプミポン前国王が半世紀以上の歳月をかけて築いた権威を引き継ぐのは容易ではない。政治対立を続けるタクシン元首相派と反対派との和解や、軍の介入を必要としない民主化は実現していない。新国王の求心力と指導力が試される。
ワチラロンコン皇太子は、18世紀後半に成立した現チャクリー王朝の10代目の国王となる。軍事政権のプラユット暫定首相は29日の定例記者会見で「憲法の規定に従って君主に即位される。めでたいことだ」と述べた。
新国王がどのような国王像をめざすのかはまだ見えない。前国王は18歳で即位し、地方行幸や国民生活を向上させる「王室プロジェクト」などを通じ国民の心をつかみ、「国父」と慕われた。写真、音楽、絵画などを楽しむ多才な趣味人としての横顔も好感された。
時がたつと国民の間に個人崇拝に近い熱狂が生まれ、前国王は騒乱の収拾などで絶大な権威を発揮した。新国王はその父の陰に隠れてきた面は否めず、64歳で即位する今から偉大な父の足跡をなぞるのは難しい。「王室と国民の関係が変化するのは避けられない」(タイ研究者のデービッド・ストレックファス氏)との声もある。
新時代の王室にとって自らへの批判を取り締まる不敬罪の取り扱いも課題だ。タイの不敬罪は最長で禁錮15年の重罪。王室批判はタイ社会のタブーとなり、欧米メディアなどから「非民主的」と指摘されてきた。
新国王は一般家庭出身の3人目の妻と14年に離婚した。その後、両親を含む妻の関係者数人が15年に不敬罪で相次ぎ有罪判決を受けた。
プミポン前国王は05年「国王にも間違いはある」と自身への批判を容認する姿勢を表明した。不敬罪の見直しを示唆したと受け止めた人も多かったが、政府や国会は行動を起こさなかった。
新国王が即位すると、総選挙に向けたカウントダウンが始まる。発足から2年あまりの軍政は治安安定を最大の成果としてきた。だが反軍政のタクシン派や民主派を言論統制などの強権で抑えてきた側面は否めない。
1年間の喪があけると来年末にも総選挙が控える。約6年ぶりとなる選挙戦を機にタクシン派と反対派との対立が先鋭化する恐れもある。新たな国王を君主に頂き、タイ政治がどこへ向かうのか視界は晴れない。
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タイのワチラロンコン皇太子、軍事に高い関心
2016/11/30
ワチラロンコン皇太子はプミポン前国王とシリキット王妃(84)の長男として1952年7月28日、バンコクで生まれた。英国などで軍事を学び75年タイ陸軍に入隊、現在は陸海空3軍で大将の肩書を持つ。72年12月に前国王から王位継承権を与えられた。
89年に昭和天皇の大喪の礼、90年に天皇陛下の即位の礼に参列するため来日した。前国王や妹のシリントン王女(61)に比べ公務の様子が報じられる機会は少ない。息子が留学するドイツで過ごす時間が長く、前国王死去後も2度渡独した。
1987年に外国人記者団による異例の取材に応じ「王室は国をひとつにまとめる存在だ」と意義を述べたという。
軍事に関心が高く、戦闘機やボーイング旅客機の操縦資格を持つ。3度の結婚で5男2女をもうけた。現在も次期王妃と目される女性の存在が知られている
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