2015/10/21

人材育成、漁師塾に託す。尾鷲(おわせ)市早田(はいだ)町

【21-1】(伊勢新聞社、文と写真・広瀬秀平)引用編集

 「大敷(おおしき)」と呼ばれる定置網を引く漁師塾の卒業生と漁師ら

人材育成、漁師塾に託す 過疎の危機に伝統の漁村

 水平線から昇る朝日が、男たちの頬 を赤く染めた。
三重県尾鷲(おわせ)市早田(はいだ)町沖の熊野灘。

  「オイサ、オイサ」。
威勢のいいかけ声に合わせ、地元で「大敷」と呼ばれる定置網が引かれると、ブリやトラフグなど旬の魚が跳ねた。
ベテラン漁師に交じって汗を流す若者は、後継者育成のために地元漁協が実施する「早田漁師塾」の卒業生だ。

「1カ月に35日、雨が降る」と言われる全国屈指の降水量と、南方の恵みをもたらす黒潮
それらが混じり合うリアス式海岸がある同町は、定置網漁や伊勢エビの刺し網漁などでにぎわってきた。

 しかし、近年は過疎が進み、漁業の人手不足も深刻化。
市によると、尾鷲漁協早田支所の組合員数は、1981年の150人から2011年は70人に半減している。

 早田漁師塾は、漁業再生と地域活性化を目的に、12年に始まった。
町に約1カ月間滞在し、漁業のイロハから漁村での暮らし方などを学ぶ。
地縁、血縁に頼らない新たな人材育成戦略だ。

 これまでに県外から参加した塾生2人が卒業、漁師になった。
愛知県豊田市出身の 吉田元治 (よしだ・もとはる) さん(31)は、釣り好きが高じて漁師塾の1期生となり、今は大型定置網の漁師として活躍している。

 今年1月下旬、吉田さんは漁船にいた。「網の使い方とか、まだできないことはたくさんある」。
30歳を超えた"新人"は話し、船内を人一倍動き回っていた。

 「朝日を浴びながら仕事をするのは最高」と吉田さん。
昨年末には地元の女性と結婚し、転職とともに人生の大きな節目をこの地で迎えた。
「将来は自分の船を持ちたい」。
この先も海とともに生きる覚悟を決めた。

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