庶民の台所から観光地へ 漁師町、カツオでアピール。高知県中土佐町

【2-3】(高知新聞社、文と写真・八田大輔)引用編集

海の幸が並び、多くの人でにぎわう「久礼大正町市場」

  一本釣りの町、高知県中土佐町のカツオは鮮度抜群だ。
地元で"グビ"と呼ぶ、もちもちの刺し身やたたきが漁師町の人情とともに味わえる。
海にほど近い 久礼大正町市場 (くれたいしょうまちいちば) は「市場」といっても40メートル余りの商店街。
アーケードの下に、鮮魚店や総菜店などが並ぶ。

 午前11時ごろ、かっぽう着姿の女性たちが手押し車にクーラーボックスを積んで現れる。
自家製の干物や、夫が釣ったカツオ、ウルメなど季節の鮮魚を露店に並べる。
「食べたいんですが」。
足を止める観光客に「はいはい、切りますか」。
目の前でさばき、あっという間にタチウオの刺し身が出来上がった。

 こうした露店が明治から続く市場の始まりだ。
大火災で一時失われたが、「中土佐町史」によると、大正天皇の寄付で復興したことから現在の名前になったという。
鮮魚店に嫁いだ 田中節子 (たなか・せつこ) さん(79)によると、約20年前まで露店がひしめき「大正町に寄れば、おかずがそろう」という庶民の台所だった。

 不景気や高齢化で寂れつつあった2003年、町も協力してアーケードを改築。
これを機に、カツオ丼などが味わえる食堂を商店主らが共同でオープンした。
市場内で刺し身や総菜を選び、好みの丼を作れるシステムなど、観光客向けの取り組みも人気を集めている。
  昨年は女性たちが「久礼乙姫の会」を結成、イベントで地域の魅力をPRするなど奮闘している。

 町の台所から観光地へ―。
転換に戸惑う住民もいるが、昨春から市場で営業を始めた鮮魚店の 山本美和子 (やまもと・みわこ) さん(38)は「『おいしい』と遠くから来てくれる。
すごいこと。
昔、親と毎日買い物に来た場所で商売ができることは幸せ」と笑った。

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久礼大正町市場 (くれたいしょうまちいちば) の周辺は故青柳裕介さんの漫画「土佐の一本釣り」の舞台。国の重要文化的景観にも選定されている。
作品に登場するような元漁師の古老や、かっぽう着姿のおばちゃんの話に耳を傾ければ、カツオの味もぐっと深まる。

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