二葉亭 四迷 『平凡』
・1864~1909
二葉亭 四迷 最後の作品です。
当時 寿命は50歳、夏目漱石は49歳で他界しました。
二葉亭 四迷は、ある時 自分が情けなくなり「くたばってしめぇ」と自分自身に言い放ちました。
それがペンネームとなりました。
二葉亭 四迷 『平凡』 青空文庫
私は今年三十九になる。
人生五十が通相場(とおりそうば)なら、まだ今日明日穴へ入ろうとも思わぬが、しかし未来は長いようでも短いものだ。
すぎさってしまえば実にあっけない。
まだまだと云ってるうちにいつしか此世の隙(ひま)が明いて、
もうおさらばという時節が来る。
そのときになって幾らあがいたって もがいたっておっつかない。
覚悟をするなら今のうちだ。
いや、しかし私もおいこんだ。
三十九には老(お)い込こみようがチト早過ぎるという人も有ろうが、
気のもちかたは年よりもふけた方が好い。
それだと無難だ。
どうしてこんな年寄りじみた心持になったものか知らぬが、
あながち苦労をして来たせいでは有るまい。
私位ぐらいの苦労は誰でもしている。
もっとも苦労しても一向苦労にめげぬいつまでも元気な人もある。
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