地域住民に映画の楽しみを届け続ける「大心劇場」。高知県安田町。2012 |
何かの映画で見たことが...。
そんな"昭和の空間"に包まれる。
高知県の人口3千人ほどの安田町。
アユが躍る清流、安田川のほとりに「大心(だいしん)劇場」が立つ。
約100席。館内の壁には、懐かしい映画のポスター約200枚がびっしり。
劇場の歩みそのものだ。
「よう来たね」。
1人で切り盛りする館主の小松秀吉(こまつ・しゅうきち)さん(60)が客一人一人を迎える。
この日の上映は、50年前に公開されて大ヒットした「愛染かつら」。
男女のすれ違いを描く純愛劇だ。
見終わった常連の女性が涙を拭きながら出てきた。
「また古いのをやってね」。
小松さんに声を掛けて帰っていく。
父が1954年に始めた映画館を小松さんが引き継いで30年。
全盛期は県内に150館以上あったとされる映画館だが、今はシネコンも含め4館。
高知市以外では、ここだけだ。
映写機や客席の椅子、スクリーンは、閉館した映画館から譲り受けた。
夏は扇風機、冬はストーブ。
「シネコンはフル装備、うちは"古装備"」。
上映作の看板も小松さんの手描きだ。
上映は月10日間ほど。
懐かしい日本映画から、最近の米アカデミー賞作品まで、多様な映画の楽しみを届ける。
1台の映写機でフィルムをつなぐ「流し込み」は、全国でも継承者がわずかしか残っていない職人技だ。
「映画みたいな映画館で古い映画を」と県外の映画ファンも訪れるが、客が入らない日も。
経営は「苦しい」。
それでも「残すべきものがある。
1人でも来てくれる限り、やめないよ」。
親子2代で故郷の映画の灯を守ってきたこだわりと地域への愛情が、小松さんの背中を押す。
問い合わせは大心劇場、電話0887(38)7062。
*
映画界は大転換期。配給会社がフィルムから、デジタル化を推し進める。機器導入には約1千万円が必要とされ、全国で相次ぐ映画館の閉館に拍車を掛けるともいわれる。
だが、大心(だいしん)劇場はフィルムだから伝わる映画の魅力を教えてくれる。
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