- アメリカの1日の石油生産量はサウジアラビア並の900万バーレル。
- 2011年の輸出のトップ項目は、エネルギー。
- アメリカが中東に関心をなくしているのは、石油の心配がなくなったため。
シェールガス革命 明と暗 製造業の競争条件、一変も
米国を起点とする「シェールガス革命」が、日本企業に新たなビジネスチャンスをもたらしている。突如現れたエネルギー資源に絡もうと、各社は熱い視線を送る。だが、目先のブームに沸くだけでは、「革命」が持つ破壊力を見落とすことになりかねない。
米国の石油掘削会社が注目する新素材がある。クレハが近く量産を始めるポリグリコール酸(PGA)と呼ぶ樹脂だ。特徴は一定温度で水と二酸化炭素(CO2)に分解される点。これをシェールガスの生産に使おうというのだ。
地中の岩盤層に含まれるシェールガスを取り出すには、水圧をかけて岩石に割れ目を作る。しみ出るガスの“通り道”を確保する材料として、強度があり、環境への影響が少ないPGAに着目した。住友ベークライトも、通り道を支えるための砂の粒を覆うフェノール樹脂を米国で増産する。
いずれも「開発段階では想定していなかった用途」(クレハ)。北米でシェールガスの本格生産が始まってまだ10年にならない。生産技術も発展途上にある。安全・低コストにつながる技術が求められる中で、日本の「素材力」が存在感を増している。
「シェールガスの産出は21世紀最大のイノベーション」。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長は言う。世界のエネルギー需給構造を劇的に変え、米国の製造業回帰も促している。ダウ・ケミカルはシェールガスを使い、石油化学製品の基礎原料となるエチレン工場を新設する。電炉大手のヌーコアは天然ガスを使う「直接還元鉄」の生産を検討する。
日本でも安いシェールガスを加工した液化天然ガス(LNG)を輸入できれば、割高なLNGの調達構造に風穴を開けると期待されている。ガス権益の確保を急ぐ商社やガス会社をはじめ、プラント、建設機械、鋼管、金融……。ブームに乗り遅れまいと一斉に走り出している。
だが、うねりは大きくなるほど全体像は見えにくくなる。シェールガス革命がもたらす未来は日本に明るい話ばかりではない。企業競争の土俵を大きく変える可能性を秘めるからだ。
これまでに明らかになった米国でのエチレン新設計画は2020年までに年産800万トン程度。製造コストで日本の数分の1の製品が、日本の生産能力を上回る規模で世界市場に流れ込む。過剰設備を抱える日本の総合化学メーカーの経営は一段と厳しくなる。
米国では安いガス火力発電への移行が加速している。原子力発電の将来が不透明な日本では当面、割高な石油や天然ガスの輸入に頼らざるを得ない。原発ゼロなら、電気料金は30年で最大2倍になるとの試算もある。原料や電力コストなど競争条件の日米間格差が広がれば、日本企業に生産移転を迫る圧力となる。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構の伊原賢上席研究員は「米国でのガス利用が広がれば、天然ガス自動車などガス関連技術の根幹を米企業が握りかねない」と指摘する。円高や貿易自由化の遅れなど「6重苦」に直面する日本の製造業に、シェールガス革命が新たな“苦”を加えることになりかねないのだ。
(編集委員 松尾博文)
関連キーワード
クレハ、シェールガス、LNG、PGA、ダウ・ケミカル、ヌーコア、三菱ケミカルホールディングス、住友ベークライト、経営の視点