日本の原発ゼロ方針、米「大統領が再考要請」 核不拡散や平和利用協力、枠組み崩壊を懸念
野田政権がエネルギー・環境戦略で掲げた「2030年代に原発ゼロ」の政府方針を巡り、米政府が「オバマ大統領の意向」として強力に見直しを求めていたことがわかった。核不拡散・平和利用に向けた日米協力の枠組みが崩壊しかねないとの懸念が背景。結局閣議決定を見送ったが、あいまいな決着の火だねは今後もくすぶりそうだ。
複数の当局関係者によると野田政権が8月以降、原発ゼロの明文化に動く過程で米側は日本政府に対し、「国家最高指導者レベルでの協議の結果だ」としてゼロ方針を再考するよう要請。オバマ大統領以下、政権の総意との見解を伝えた。
9月8日にはロシア・ウラジオストクでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で野田佳彦首相がクリントン国務長官と会談。大統領を代理する形で同国務長官が懸念を表明した。表面上はあからさまな批判を控える一方、大統領と米議会を前面に押し出し日本への圧力を強めた。
日本政府は12日、長島昭久首相補佐官らを米に緊急派遣し、日本の対応に業を煮やすホワイトハウス高官らと直接協議。戦略を参考文書扱いとし、米側の視点からは路線転換を見送ったと読めるようにする「玉虫色の決着」(日本当局)で決定的な対立を回避した。
米政府は、日本の脱原発への方針転換で「米のエネルギー戦略が直接的な打撃を被る懸念が高まった」(エネルギー省元副長官のマーチン氏)とみている。日本の原発政策はオバマ政権の核不拡散や地球温暖化防止に向けた環境政策とも密接な関係にあるためだ。
日米は1988年発効した原子力協定で、青森県六ケ所村での核燃料サイクル施設ならば米の事前同意なく再処理を認める包括方式で合意。日本は核兵器を持たず、プルトニウムの平和利用を担保する最重要の役割を担っている。
現行の日米協定の期限が切れる18年に向け、早ければ来年にも非公式な事前協議に着手する必要がある。なお猶予があるとはいえ日本が原発政策を不明瞭な形で放置すれば米が再処理許可の更新などに難色を示す恐れもある。「協定改定の先行きが読めなくなった」(日本政府関係者)との声が出ている。
(ワシントン=矢沢俊樹)
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