内向き思考が招いた家電危機(NK2012/9/12)


大機小機内向き思考が招いた家電危機

 日本を代表する産業、家電が危機にある。今後の立ち直りに期待したいものだが、まずは何が原因でここまで落ち込んだのか、それを探らないといけない。根本原因が把握できれば、再建への主軸が確立する。
 消費者の立場から日本の家電を眺めると、次の問題点が浮かび出る。
 一つは、大局観の不足である。ホームマーケットである日本が高齢化を迎え、人口がピークアウトした。かなり以前からこの現状を予測するのは容易で、最終消費財の生産者が打撃を受けるのはほぼ確実だった。家電メーカーは製品の大型化や高級化で対応を図ったと思われるが、これでは人口が爆発的に増えている新興国を無視している。
 つまり、日本の家電は得意としていた国内市場を深耕しようと試みた。このため、新興国という伸び盛りの市場を放棄したのも同然となり、競争上劣位に陥ったのではないか。もちろん、日本向け製品は欧米でも受け入れられるだろう。しかし、欧米の人口問題は日本と大同小異である。
 もう一つは、既存の製品に固執しすぎたことだろう。大型化や高級化もその一環だが、同時に製品のロゴやイメージに凝るといった細部の追求にも熱が入った。この結果、米アップルのような革新的製品の提供を逃したのではないのか。
 視点を変えると、家電メーカーが最終消費者とどれだけ真摯に向き合ってニーズをくみ上げてきたか、外部環境の変化をどれだけ素直に観察したか、疑問が残る。当期の利益ありき、既存の秩序ありきで製品の提供を続けた面はないだろうか。製品も販売網も、外部環境の変化に応じ、いずれ既存秩序の創造的破壊が不可避となる。人口問題、新興国の台頭、IT(情報技術)の飛躍的発展がこの創造的破壊を求めたものの、家電メーカーはそれを等閑視した。
 気になるのは、投資家への情報提供に消極的にもみえる会社があることだ。最終消費者と直接向き合うべき家電メーカーが、情報を積極発信せず内にこもってしまう。これでは、外部との真の対話が成り立たず、最新のニーズや情報を十分把握できるわけがない。
 創造的破壊を経てこそ、家電メーカーの復活がある。既存の状態を少し変形し、リストラしただけでは、内向き思考の延長でしかない。
(癸亥)