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(3)フィリピン 外資、若い労働力に注目 過度なペソ高がリスク要因
東京ドーム75個分の広さを持つ「ファーストフィリピン工業団地」は、マニラ南方のバタンガス州にある。スマートフォン(高機能携帯電話)に使う積層セラミックコンデンサー最大手の村田製作所は、海外最大の生産拠点を建設中だ。
フィリピンを選んだのは、若年労働力の確保しやすさに加え「英語が堪能で他言語よりも技術を教えやすい」(村田製作所フィリピンの稲森章管理部長)ためだ。
バンダイは来年夏にも、17年ぶりとなる自社工場を比で稼働する。人件費が高騰した中国に集中する生産体制を改編、コスト削減を図る。キヤノンやブラザー工業も、来年相次いで工場を新設。2011年の対比直接投資額は約2500億ペソ(約5千億円)で、09年の2倍近くに増えた。
長い間の政治混乱と経済停滞で「アジアの病人」と評された時期もあったが、アキノ現政権は汚職撲滅やインフラ整備を進めてテロも激減。外資が見る目は変わりつつある。東日本大震災やタイ洪水など、企業が一極集中のリスクを意識する事態の続発も注目を集める契機となった。
送金額が最高に
「こんなに売れるとは予想しなかった」。マニラに6月オープンしたカジュアル衣料品店「ユニクロ」の比1号店。関係者によると1カ月の売り上げは約2億円で、日本の店舗平均の3倍近い。ライオンは10月にも、歯ブラシやシャンプーを発売する。
個人消費が国内総生産(GDP)の7割を占める。1~3月の成長率は内需がけん引し6.4%と、アジアでは中国に次ぐ。旺盛な消費の原動力は、海外の出稼ぎ労働者からの送金だ。
労働者は景気の良い地域に集まるほか、看護師など好不況に左右されにくい業種も多い。結果的に世界で偏在する富を吸収する形となり、今年も送金額は過去最高の勢いだ。GDPの1割に当たる送金額の多くは国内に残る家族の消費に回る。
国内雇用が課題
内需企業の好業績に海外投資家も注目。比証券取引所総合指数(PSEi)は今年21回も過去最高値を更新し、世界でも珍しい活況に沸く。「業績が良いから、まだ株価は上がる」(メイバンク・ATRキムエン証券)との見方が大勢だ。通貨ペソ高で物価は安定し、インフレ懸念も少ない。
コールセンター業務などビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業が成長。「サービス産業の発展により高成長するアジアのダークホースになる」(ニッセイ基礎研究所の高山武士研究員)可能性を秘める。
ただ、過度なペソ高は出稼ぎ送金が目減りするリスクをはらむ。人口の3割を占める貧困層対策も課題だ。若者が出稼ぎするのは、国内で就職できない事情も大きい。いくら直接投資が増えても、若年層の雇用を確保できなければ、成長の足を引っ張りかねない。
(マニラ=佐竹実)
<豆知識>出稼ぎ労働者
メイド、船員、医師・看護師など海外に出稼ぎに行く様々な職種のフィリピン人労働者が、国内経済を支える。フィリピン中央銀行によると今年1~6月の送金額(銀行経由)は前年同期比5%増の101億ドル(約8千億円)。例年、送金額はクリスマスにかけて増える傾向がある。
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