政界
日米地位協定 積もる不満
地元「米軍を過度に優遇」 政府「運用改善で対応」
墜落事故が相次ぐ米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイへの懸念が全国に広がっている。10月の本格配備に向けて日本政府は安全なルートでの飛行を求めているが、行動をできるだけ縛られたくない米軍への要請には限界がある。駐留を始めて67年になる在日米軍と日本はどう向き合ってきたのか。米軍基地を抱える自治体から「米軍は過度に優遇されている」と批判の矛先が向くことが多い駐留ルールを定めた日米地位協定から考えてみた。(藤田祐樹)
オスプレイ12機が山口県岩国市の米軍岩国基地に運び込まれてから3日後の7月26日。外務省で北米局の秋葉剛男参事官ら外務・防衛両省の担当者が在日米軍、在京米大使館の幹部と向き合った。在日米軍に関して日米両政府が話し合う日米合同委員会と呼ばれる会議だ。
「沖縄県や山口県だけでなく、全国的にオスプレイの安全性に懸念が広がっている」。日本側はオスプレイの安全性確認を徹底するよう求め、両政府は安全だと認められるまで飛行しないことを申し合わせた。15日には都内の米軍施設で2回目の会合を開催。オスプレイを10月に本格配備した後、全国で実施する低空飛行訓練について、どのように安全を確保するかなどを巡って意見交換を続けている。
日米合同委員会は普段、政治の表舞台には出てこない関係省庁の担当者中心の会議だが、役割は幅広い。設置根拠となる日米地位協定25条は日米合同委員会について「地位協定の実施に関して協議を必要とするすべての事項に関する日本国政府と米国政府との間の協議機関」と定める。
日米地位協定は在日米軍が駐留する際、基地の使用や軍人の地位などを定めている。日本は米軍の占領を経て1951年のサンフランシスコ平和条約で独立を回復したが、同時に日米安保条約を結んで引き続き米軍の駐留を認めた。駐留ルールを定めた行政協定は60年の安保条約改定の際に地位協定に改められた。
地位協定は全部で28条あり、基地の範囲や使用期間などから、米兵の家族や関係者の身分の規定から入国時の手続き、雇用条件、犯罪が起きた際の手続きに至るまで幅広く網羅している。ただ実際に運用すると様々な問題が発生する。その場合、具体的にどう対応するか日米間で話し合うのが日米合同委員会だ。
日米合同委員会は毎月2回程度、会議を開いており、60年の設置から開いた回数は累計で1000回を超えるという。合同委員会には航空機騒音対策、環境問題、刑事裁判手続きなど35の分科会や部会があり、関係省庁の事務担当者が米側と詳細なやりとりをする。同様に米軍が駐留する韓国では年に数回しか米国と議論の場がないとされ、それに比べると頻度は多い。
ただ、頻繁に日米間で話し合いが持たれるのはそれだけ米軍を巡るトラブルが多いことの裏返しでもある。国内の米軍基地の約7割が集中する沖縄県をはじめ、基地を抱える自治体からは「米軍の権利を尊重した不平等なものだ」といった批判が絶えない。米兵による事故や犯罪などが起こるたびに地位協定の見直しを求める声が噴き出す。
特に95年の沖縄少女暴行事件では刑事裁判権が大きな問題となった。米軍が地位協定を理由に米兵の身柄引き渡しを拒んだためだ。地元の強い反発を受けて殺人や暴行などの凶悪犯罪については、日本側が起訴前の身柄引き渡しを要請すれば米側が「好意的考慮」を払い、引き渡しに応じることもありうるとすることで合意した。
地位協定は60年の発効から1度も改定されていない。民主党は2009年衆院選のマニフェスト(政権公約)で地位協定の改定を提起するとしていた。政権交代後、米軍で働く軍属(軍人でない米国人)が公務中に起こした事件・事故について日本で裁判ができるようにしたほか、軍人・軍属が公的行事で飲酒した後に起こした交通事故も日本で刑事訴追できるよう公務の範囲を見直した。しかし改定には踏み込まず、運用改善で乗り切っているのが現状だ。
米軍は韓国やドイツなどにも駐留し、それぞれ地位協定を結んでいる。韓国では米兵の犯罪の裁判権をほとんど米軍が掌握していた。韓国国内でも不平等だという声が高まり、01年には殺人など12の凶悪犯罪は起訴時点で韓国側に被告の身柄引き渡しができるようになった。起訴前に引き渡す可能性がある点では日本の方が進んでいるともいえるが、米側が日本の要請を拒んだケースもある。
日本も自衛隊の海外派遣時に関係国と地位協定を結んだことがある。09年にはジブチ駐留で護衛艦やP3C哨戒機などが港や空港を使う許可を得た。03年の自衛隊のイラク派遣では航空自衛隊の物資輸送拠点としたクウェートと自衛隊員の刑事責任の扱いを定めた協定を結んでいる。
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