社説
超党派で結束し領土を守るときだ
領土をめぐる周辺国の攻勢が激しさを増してきた。ロシアのメドベージェフ首相が北方領土を再訪したのに続き、こんどは韓国の李明博大統領が竹島(韓国名は独島)に初めて足を踏み入れた。
日本が実効支配する尖閣諸島でも、中国が領有権の要求を強めている。15日には香港の活動家らが同諸島の魚釣島に上陸した。
領土問題は国民のナショナリズムを刺激しやすい。不人気な為政者にとっては威信回復の切り札かもしれないが、外交関係を著しく損なう危うさを抱える。
痛い日米同盟の亀裂
ロシア首相や韓国大統領の行動はあまりに軽率で、外交的な配慮を欠く。李大統領は天皇陛下の訪韓についても「痛惜の念という単語ひとつで訪ねてくるなら必要ない」と述べ、「心からの謝罪」を求めた。日本の国民感情を逆なでする言動で、国家指導者としての資質すら疑わざるをえない。
ただ、挑発行為に感情的に応じていては、事態は一向に改善しない。日本としては周辺国の攻勢にさらされるようになった経緯を冷静に分析し、具体的な対策を練っていく必要がある。
振り返るとやはり、2010年9月に尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件にたどりつく。日本側は当時、中国の圧力に屈する形で中国人船長を釈放し、民主党政権の外交は弱腰との印象を与えた。ロシア大統領だったメドベージェフ氏が初めて北方領土を訪れたのは、この年の11月のことだ。
民主党政権のもとで、日本外交の基軸である日米同盟が揺らいだ影響も大きい。米軍普天間基地の移設問題で日米の亀裂を招き、最近もオスプレイの配備をめぐって関係がぎくしゃくしている。
日本の政権の弱体化に加え、日米同盟まで揺らげば、中韓ロは米国の反応もさほど気にせず、日本に対してより強気に出られるようになる。これが周辺国に付け入るスキを与えたといえるだろう。
危惧すべきなのは、日本の領土を標的に周辺国が連携して圧力を強めることだ。国粋主義的な論調で知られる中国の「環球時報」は社説で、日本の領土問題でロシアと韓国を支持し、韓ロと協力することで尖閣諸島問題で日本に対し優位に立つべきだと主張した。
中国政府はかつて北方領土問題で日本への支持を表明したことがあり、竹島をめぐっては中立を貫いてきた。中国政府の公式の立場と食い違っているが、環球時報のような主張が公然となされたことは、中国の指導部内にも同様の声があることをうかがわせる。
日本が巻き返すためには、中韓ロの攻勢を許してしまっている原因をひとつずつ解決していくしかない。まずやるべきなのは、内政の混乱が対外政策の足を引っ張る構図を改めることだ。
政界では衆院解散・総選挙の足音が高まっている。総選挙後には政権の枠組みが変わる可能性もとりざたされ、ただちに内政を安定させるのは難しいのが現実だ。
それでも打つ手はある。領土をめぐる対応は政争の具とせず、超党派で結束して取り組んでいく体制を整えることだ。この点では与野党とも連携できるはずだ。まず、野田佳彦首相から野党側に協力を呼びかけてほしい。
海保の警備力強めよ
自民党などには森本敏防衛相の竹島問題に関する発言を理由に、参院での問責決議案の提出を探る向きがある。こうした対立により日本が内輪もめしている印象を与えれば、中韓ロの対日強硬派を利するだけだ。
日米同盟の立て直しも急がなければならない。米政権内には、尖閣諸島や竹島問題などでアジアの緊張が高まるのを懸念する声もある。日本はこの問題で中韓ロを挑発する意図がないことを伝えつつ、日本への支持を取りつけていく努力を怠らないでもらいたい。
ただ、これらの外交努力を重ねても、自前の防衛体制が不十分では領土の保全はおぼつかない。
とくに尖閣諸島の実効支配を保つには、中国の急速な軍備増強に対抗できる措置をとっていく必要がある。領海警備に当たる海上保安庁の体制の拡充を急ぎたい。
政府は海保による警備力を強めるため、海上保安庁法などを改正する法案を今国会に提出ずみだ。法案は先週、衆院を通過した。会期末が迫るなか、与野党が歩み寄り、ぜひ成立させるべきだ。
日本はむやみに相手国を挑発する言動を控えながら、これらの措置を粛々と講じていくことが賢明だ。そのためにも、国民レベルで健全な領土意識を高めていくことがなによりも肝要だろう。