新興・中小企業
米、起業資金は個人から ネットで小口投資募る
仲介ビジネスも活況
【シリコンバレー=奥平和行】インターネットを通じて個人から小口投資を募る「クラウドファンディング」を活用した起業が米国で広がっている。短期間で100万ドル(約7900万円)規模を集める事例が相次いで生まれ、起業家と個人をつなぐ仲介ビジネスも活況だ。煩雑な手間をかけずに創業資金を幅広く調達できる新手法として普及しそうだ。
◆1カ月で860万ドル 家庭用ゲーム機の開発を手がける米ウーヤ(カリフォルニア州)は今月8日までの1カ月間に、クラウドファンディングで約860万ドルの資金を集めた。同社はこれを元手に米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を利用したゲーム機を生産し、来春に発売する計画だ。
同社の事業計画を支持し、約6万3000人が資金を出した。1人平均135ドル程度になる。
ウーヤは米キックスターター(ニューヨーク州)の仲介サービスを利用した。同社は2009年から企業や個人を対象に、ネットを通じて起業資金を集める仕組みを提供。同社のサイトを通じて事業主がプロジェクト内容や調達目標額などを公開し、趣旨に賛同した人が資金を出す。
調達資金が目標額を上回ると事業主は資金を受け取れる。キックスターターは調達額の5%を手数料として徴収する。資金を提供した個人はプロジェクトの成果としてできた商品などを優先的に手に入れたり、提供額に応じて特別仕様の製品を受け取ったりすることができる。
これまでにゲームソフトや音楽ソフトの制作などの分野で約2万8000件のプロジェクトが成立し、調達総額は2億6500万ドルに達した。
◆太陽光に特化して仲介 こうした起業家と個人を結び付けるサービスを提供する仲介会社も「成長株」として注目されている。米インディーゴーゴー(カリフォルニア州)は6月に有力ベンチャーキャピタル(VC)の米コースラ・ベンチャーズなどから1500万ドルの資金を獲得。米ラリー(同)も同月にグーグルのVC部門などから790万ドルを調達した。
さらに資金募集の対象事業を絞った特化型の仲介会社も生まれている。4月には消費財や小売業を対象とした米サークルアップ・ネットワーク(同)が発足し、米ソーラー・モザイク(同)は米エネルギー省などの支援を受けて太陽光発電施設に特化したクラウドファンディングの仕組みの普及に取り組む。
◇ ◇ ◇
日本でも徐々に広がる PRにも活用
日本でもクラウドファンディングの利用が進み始めている。国内最大級の仲介サイト「キャンプファイヤー」はサービス開始から1年余りで200件以上のプロジェクトに活用された。
同サイトの運営会社、ハイパーインターネッツ(東京・港)によると、7~8割の案件が調達目標額に到達し、総額6000万円を集めた。新規事業や創業に活用する例が多く、資金提供者はサービスの無料利用券などの対価を得る。
千葉県内の老舗酒店は日本酒の定期購入サービスの立ち上げ費用として107人から80万円弱を集めた。ハイパーインターネッツは「資金を集めながら事業をPRし顧客を獲得できるのが利点」と説明する
クラウドファンディング
群衆を意味する「crowd」と資金調達の「funding」を組み合わせた造語。インターネットを通じて企業や個人が小口資金を幅広く集めることを指し、起業資金に加えて寄付や募金なども含む。米調査会社クラウドソーシングによると、2011年の世界の調達総額は14億7000万ドル(約1160億円)と前年より72%増えた。
拠出した資金の対価を得ない「寄付型」、商品やサービスの提供を受ける「報酬型」「貸し付け型」、株式などを対価として受け取る「資本型」があり、米キックスターターは報酬型に当たる。クラウドソーシングによると11年時点で米国の仲介会社143社のうち4割強が報酬型だった。