社説
サービス業はもう一段の国際化を
流通、教育、娯楽など生活に根ざしたサービス業の海外展開が踊り場にさしかかっている。内需が縮小する中、小売業や映像産業が海外で存在感を増せば農業や観光にもプラスの効果が生まれる。業種を超えた協力や人材活用など、新しい発想で飛躍を目指したい。
流通業ではコンビニエンスストアがアジアで定着しつつある。清潔で便利な店と丁寧な接客で都市で働く人々に支持された。
物流企業にも商機
一方で、百貨店、スーパーなどは欧米勢に差をつけられた。米ウォルマート、仏カルフールは外国の店舗数が自国より多い。日本勢の海外店は国内の1割前後だ。
日本製の粉ミルクが中国の通販市場で人気を集めるなど、経済発展に伴い、おいしく安全な日本の食品への需要は増す。日本のファッション誌の現地語版も普及し、最新の衣料品への関心も高い。
産業構造審議会流通部会の報告書は小売業の国際化が2つの壁にぶつかっていると指摘する。まず進出先の政府による出店や扱い品目の規制と、その不透明な運用。次に物流、特に日本勢が得意な生鮮品や加工食品に不可欠な冷蔵・冷凍物流網の未整備だ。
前者は政府間交渉なしに解決は難しいが、後者は民間企業の出番だ。近鉄エクスプレスとSGホールディングス(佐川急便)はインドの物流企業に出資を決めた。日本の進んだ物流システムや細かいサービスの国際競争力は高い。
きめ細かく良質のサービスは他の業界でも武器になる。結婚式場運営のノバレーゼや高級旅館の加賀屋は中国、台湾での施設運営に乗り出した。「本物の」日本式サービスを求める心理をとらえた結果だ。居酒屋やラーメンなど気軽で快適な飲食チェーンも本格的に世界へ広がり始めている。
自習教材で基礎学力を育てる公文教育研究会は海外の46カ国・地域で8300教室を抱え、生徒数は293万人と国内の149万人を上回る。能力に応じた問題を一人で解き、他人との比較ではなく達成感から自発的に学ぶ仕組みが子供をひき付けた。受験という特殊なゴールを目指していない点も手伝い、日本人向けサービスにとどまらず現地需要をつかんだ。
眠る資産を掘り起こすには外の目も有効だ。サンリオは大手商社出身の取締役が海外との提携を推進。人気キャラクター「ハローキティ」のライセンス収入で前期の営業利益は過去最高になった。
こうした民間企業の努力と挑戦を政府も支援すべきだ。といっても、個別の企業や催しに補助金を出しても効果は薄い。それよりも外国での日本企業の活動への規制を地道な交渉で減らしたい。
日本のドラマや漫画、アニメなどの文化・娯楽作品には世界中に愛好家が多いが、近年、政府主導で育成してきた韓国に押されている。とはいえ、輸出産業として一から育てた韓国の手法を日本がまねても効果は不透明だろう。
政府がやるべきは、規制緩和などで国内外の企業や創作家が日本で仕事をしやすくすることだ。制作や表現、作品流通への公的規制は極力少なくしたい。例えば米国のように路上撮影がもっと手軽にできれば、国内だけでなく海外からの撮影誘致もしやすくなる。
日本ファンを世界に
面白い作品ができれば観光客も増える。欧州の広場のようにプロから素人まで自由にものを表現できる場を用意するのもいい。
韓国は通貨危機の後、まず映像作家やスターを育て、その人気をテコに化粧品、服、電気製品、車のイメージを上げ観光客を呼んだ。かつて米国も映画やホームドラマで同様の戦略を成功させた。日本の文化・娯楽作品も世界で日本ファンを増やしたが、米韓に比べ、その効果を総合的に生かし切っているとは言い難い。
他のサービス業も同じだ。日本の食品や服を扱う店が増えれば、単独進出が難しい小規模な生産者の販路開拓になる。飲食店で日本の味を知れば食材を買う。結婚式場の利用者は美容に目が向く。
所得が伸びるアジアで日本の生活文化に触れる人が増えれば、日本への観光旅行だけでなく日本メーカーの住宅、日本企業が手がける都市開発にも注目が集まる。
快適、便利、繊細、自由。こうした価値を前面に日本ファンを増やす。その効果は国内産業にも広く及ぶはずだ。