IT「伝道師」 プレゼンの極意
クラウドや仮想化、やさしく説明 顧客目線で利点訴え
IT(情報技術)サービスは便利なようだが、内容の理解が難しい。こんな顧客の悩みを解消するため、営業に同行したりセミナーで講演したりして自社のサービスを分かりやすく説明する「エバンジェリスト」と呼ばれる担当者が活躍の場を広げている。高いプレゼンテーション能力を身につけるためのスキルはIT以外の業界でも参考になりそうだ。
「来場者の拍手やアンケート結果で、その日のプレゼンの良しあしが分かるのが楽しい」。クラウドサービスなどを提供するアマゾンデータサービスジャパン(東京・目黒)で2010年からエバンジェリストとして活躍する玉川憲さん(36)は語る。
年160回の講演
エバンジェリストは直訳すると「伝道師」。IT業界で新技術やサービスの長所を分かりやすく伝える役割を担う。ネットワーク経由でシステムを利用できるクラウドや、1台のサーバーを複数台あるように扱える「仮想化」など技術の複雑さが増し、ここ数年、注目され始めた。
玉川さんの講演回数は自社や業界団体のイベントなど年160回前後にのぼり、約1万3000人にアマゾンのクラウドサービスなどを説明する。分かりやすい説明はもちろん、顧客に「使ってみよう」と行動に移してもらうことが使命だ。
そのために最も重視するのは「客が何を求めているかを理解すること」。説明内容や話し方は経営層や部課長級、技術者など相手によって変える。例えば、経営層には技術の詳細よりも「クラウドを使えば固定資産が減る」「事業の世界展開を加速できる」といった経営上の利点を伝える。
玉川さんは別の外資系企業で04年、会社推薦でエバンジェリストの道を歩み始めた。直前まで役員補佐として資料作りを経験。資料を上司から突き返されるのもしばしばで、相手に合わせて話すことの重要性をここで学んだ。
「情熱と使命感を持ち続けること」も重視する。現在の会社に転職したのも「クラウドの便利さを知り、日本中に広めなければと感じたから」。仕事で疲れたときはこの初心を思い出すという。
日本IBMシステムズ&テクノロジー・エバンジェリストの柴田直樹さん(39)は中小ソフト会社に勤めていた15年ほど前に突然、新サービスのプレゼン役を任された。相手はマスコミ関係者約100人。本来の担当者が体調不良になり、発表資料を作った柴田さんに重責が回ってきた。
ツイッター駆使
「人前で話すのが苦手で、技術者として黙々と働くのが格好いいと思っていた」。無我夢中でプレゼンを終えると、記者らが名刺を持って列をなし、講演依頼も舞い込んだ。人前で話すことの面白さを知り、著名なエバンジェリストがいる外資系企業に転職した。
そこで達人と呼ばれるエバンジェリストが「講演直前まで話題を探したり膨大な資料を読み込んだりと、大変な努力をしているのを知った」。10年に念願のエバンジェリスト職として日本IBMに転職。今は自らもミニブログ「ツイッター」で直前まで講演内容への要望を募るなど工夫する。
柴田さんら多くのエバンジェリストから尊敬されるのが日本マイクロソフトのテクニカルソリューションエバンジェリスト、西脇資哲さん(43)。講演回数は年180~190回。アンケートをとると、5割以上の客が講演をまた聞きたいと答えるほどの人気という。
西脇さんはエバンジェリストの成功の秘訣として2つ挙げる。1つは顧客の視点に立つこと。もう1つは「製品に愛着を持ち、自信を持つこと」。西脇さんは自社製品を自費で購入してとことん使い、夜中まで資料を読み込んで技術を深く理解する努力を重ねる。
話し方や資料の作り方などは「繰り返し練習すれば、誰でもある程度まではうまくなる」と断言する。人より一歩抜きんでたプレゼンをするためには誰よりもその製品に詳しいという自信を持つことが大事という。
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