(変わる企業地図)電力・インフラ求め(2) 内陸の埼玉・岐阜に脚光 震災契機に拠点分散進む
- 2012/8/15付
- 日本経済新聞 朝刊
- 1213文字
埼玉県が6月に大阪市で開いた近畿埼玉県友会。上田清司知事も出席したこの場で、西日本の企業5社が一挙に同県への進出を表明した。整備が進む高速道路のほか、地盤の固さや内陸の安全性が決め手になった。
170億円を投資
「災害時にも安定供給できることが重要」と説明するのは日用品卸大手Paltacの折目光司社長。白岡町に170億円を投資して物流拠点を建設する。流通加工のエスケーロジ(大阪市)は千葉や神奈川と比べた末に埼玉を選んだ。
東日本大震災後、企業は「強固な地盤」や「津波の影響がない」など安全性を立地の重要な条件にし始めた。同時被災を避けるため拠点を分散させる動きも活発だ。
中部圏で内陸にある岐阜県も県外からの誘致が好調だ。トヨタ自動車など大手の戦略拠点新設が加速し、中堅・中小企業にも工場を新増設する動きが広がる。
恵那市に工場を新設する飲料缶向け特殊塗料メーカーの桜宮化学(大阪市)は関西、首都圏に続く拠点にする。池田町にある岐阜工場が手狭になった土木建設用機械のヒロサワ機械(大阪市)は工場の「岐阜への集中」を選んだ。来春に隣の大野町に工場を新設する。
経済産業省による2011年の都道府県別工場立地件数で、岐阜は前年比2倍強の36件と埼玉と並ぶ4位に躍進した。「強固な地盤が評価された」(古田肇知事)ほか両県とも高速道整備でアクセスがよくなっている。
分散の視点で脚光を浴びるのが沖縄県だ。首都圏から約1600キロメートル離れ、他の地域と同時に被災する危険度が小さい。電力供給に余裕があり、県はデータ拠点の誘致に力を入れる。ネット証券のGMOクリック証券(東京・渋谷)などが相次いで拠点を設置した。
企業は「震災前は分散拠点の必要性をわかっても沖縄進出には及び腰だった」(県情報産業振興課)。だが震災で状況が一変する。「動きが速かったのは外国人経営者。2カ月超で拠点を沖縄に移した企業もあった」
日本海側に進出
震災後、改めて危なさへの認識が高まった「南海トラフ」による巨大地震。太平洋岸が広く被災する可能性があり、太平洋側に拠点を分散させても備えは十分ではない。
事態に備え日本海側の鳥取県米子市に進出したのが、高知市にあるコンデンサー絶縁紙最大手のニッポン高度紙工業だ。コンデンサー用絶縁紙で世界の6割のシェアを握り、世界的なサプライチェーン(部品供給網)の一翼を担う。高知県内に3工場を持つが、同時に被災すれば大震災時の車載用ICのように供給網の寸断を招きかねない。
分散の検討は07年の新潟県中越沖地震で自動車の部品供給網が乱れたのがきっかけ。「災害時でも世界に安定供給できる体制を築く」(鎮西正一郎社長)として、10年夏に米子進出を発表した。
88億円を投じた新工場は9月に動き出す。7月の竣工式で鎮西社長は「大震災で我々の判断は正しかったと確信した」とあいさつした。拠点分散の動きはこれからも加速しそうだ。
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