中国、胡主席の影響力強まる 薄氏事件、党内融和へ幕引き急ぐ
【北京=島田学】中国重慶市のトップだった薄熙来氏を巡る事件で、共産党は不正蓄財にはあえて触れず、早期の幕引きに動いた。薄氏の妻が絡んだ殺害事件の裁判が20日にスピード決着したのも、今年後半の党大会をにらんで党内融和を優先させた結果と映る。党内では胡錦濤国家主席の影響力が強まっており、軍を含めた次期指導部の人事でも主導権を握りつつある。
(関連記事国際2面に)
「密室だった裁判は無効だ」――。薄氏の妻、谷開来被告に執行猶予付きの死刑判決が出された20日、左派のブログには判決を批判する書き込みが相次いだ。当局は直ちにブログを削除し、左派の動きを封じ込めた。
「胡主席が仕掛けた権力闘争」ともいわれた殺害事件だが、党内では「予想通りの判決」と受け止められている。薄氏が失脚した4月ごろのとげとげしい雰囲気は消え、融和を探る動きが出ていると関係者は明かす。
今年秋に党大会を控えた共産党。薄氏の問題を片付けるには8月中がギリギリのタイミングだった。胡主席は薄氏の影響力が低下するのを慎重に見極め、一気に幕引きを図ったとみられる。
党内は、胡主席ら党青年組織「共産主義青年団(共青団)」の出身者と、薄氏や次期最高指導者に内定している習近平国家副主席など党老幹部の子弟ら「太子党」が勢力を二分する。薄氏を失脚にまで追い込んだ以上、さらなる追及は反発を招きかねない。薄氏の妻の罪を「執行猶予付き」に軽減したのは、党内融和に向けた、太子党への秋波といえる。
薄氏も厳罰は免れそうだ。党指導部は8月上旬に河北省の避暑地「北戴河」に集まり、次期指導部人事とともに薄氏の処分も協議した。関係筋によると、刑事罰には問わず、重くて党籍剥奪処分になる見通しという。
薄氏の不正蓄財や海外送金にも触れず、党内融和を優先させた指導部。これを受け、党内では胡主席の影響力が増している。中国の国営中央テレビは8月から「この10年で就業者数は年平均350万人増えた」などと胡政権の10年の成果を喧伝(けんでん)し始めた。
次期指導部の人事も胡主席主導で進んでいるとされる。そのひとつが人民解放軍の掌握だ。
薄氏の失脚後、胡主席は軍への指導を強めている。次期指導部人事では、軍の最高意思決定機関に当たる党中央軍事委員会で、軍人以外の委員の枠を増やそうとする動きが出ている。
軍の有力幹部には親も軍幹部を務めた「軍太子党」が数多い。薄氏は一部の軍太子党と組んで、習副主席が内定している次期最高指導者の座を奪おうとしたとされる。危機感を覚えた胡主席が習副主席と手を結んだのが薄氏の失脚劇につながったとの見方もある。
若手幹部の人事でも胡主席の考えが反映されそうだ。次期指導部人事で胡主席は党トップ25に当たる政治局員に、10年後の党指導部を担う現在50歳前後の若手幹部を抜てきする方針。胡主席は次期指導部だけでなく、10年後の指導部に対しても影響力を維持する考えのようだ。
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