2012/10/16

ANA、ミャンマー直行便就航(NK2012/10/15)

ANA、成長へ直行目指すミャンマー線

(1/2ページ)
2012/10/16 6:00
 全日本空輸(ANA)が15日、日本―ミャンマー(ヤンゴン)線を12年半ぶりに復活させた。豊富な労働力と天然資源を抱え「アジア最後のフロンティア」と称されるミャンマー。ANAも日本企業などのビジネス・観光需要を見据える。アジアの空を舞台に、日本航空(JAL)やシンガポール航空など、ライバルたちとの生き残りをかけた戦いが激しさを増す。
職員に見送られ、出発する全日空のミャンマー線の第1便(15日、成田空港)
画像の拡大
職員に見送られ、出発する全日空のミャンマー線の第1便(15日、成田空港)
「All Nippon 913, Line Up and Wait!(全日空913便、離陸に向け滑走路で進入待機)」「Roger !(了解)」――。15日午前10時30分ごろ、成田空港の航空管制官がミャンマー線初便に無線で呼びかけると、機長らはやや緊張した声で応えた。
 ミャンマー線は運航する航空機に特徴がある。日本の地方路線や中国、韓国線で活躍している米ボーイング737型機で、全席がビジネスクラスの特別仕様になっている。同型機の標準仕様はエコノミークラス(普通席)を含めANAでは120席程度、スカイマークなど格安航空会社(LCC)は座席ごとの間隔を詰めることで150~180席ほどを設定している。ANAは今回、ビジネスクラス限定にすることで38席に絞り込み、1座席あたりの運賃収入と利用率(搭乗率)を底上げする戦略に打って出た。
 「利益の質を追う」――。こう話すANA経営陣の表情は険しい。航空業界は機材や人件費などの固定費が重く、一定の搭乗率を保てないと採算を大きく押し下げるからだ。ANAの国際線搭乗率(2012年3月期の全路線平均ベース)は73.7%。航空業界で「アジアの雄」とされるシンガポール航空の77.4%に比べると、まだ改善の余地がある。JALは70.4%だが、経営再建を成し遂げ収益力はANAをしのぐ。

 ミャンマー線は、そのJALに対しても有力な対抗軸になる。これまで成田からミャンマーまではバンコクなどで乗り継ぐ便しかなく、移動時間は計10時間以上かかった。ANAは唯一の直行便で7時間半で結ぶ。JALが直接飛んでいない都市だけに、38席のビジネス専用機でも十分採算ラインに乗ると踏んでいるようだ。
 さらに、ミャンマーをめぐっては日本政府が円借款の復活を表明したばかり。今後、資源・インフラ整備や自動車などを中心に欧米、アジアの有力企業の進出が加速する。ANAが目を付けるのがミャンマーをはじめ、アジア各都市から成田を経由して北米に向かう旅客需要だ。
 ANAは、同じ航空連合「スターアライアンス」に所属する米ユナイテッド航空やルフトハンザ・ドイツ航空グループと路線の一体運営を進めている。成田空港をアジアのハブ(中継拠点)と位置付ける欧米航空会社は多い。ANAが成田からアジアの主要都市に向かう路線を豊富に持てば、例えばユナイテッド航空で米ニューヨークから成田を乗り継いでミャンマーやインド、中国に向かう需要を取り込める。こうした路線の一体運営は提携先の顧客も呼び込み、自社の搭乗率を引き上げることにもつながる。
 これまでANAの国際線事業は苦難の連続だった。成田―グアム線で同事業に本格進出したのは1986年3月。JALを手本に自前で世界主要都市への路線拡大を目指したが、大半は日本人旅客で利用率が高まらず不採算路線も抱えた。成田―シカゴ線は本来、ビジネス旅客の方が多いにもかかわらず、無理に座席を埋めようと旅行会社のパッケージツアー向けに航空券の安売りを続け一段と採算が悪化。結果として一時運航休止に追い込まれた(現在は通常運航)。LCCの本格参入で、すでに中国など近距離の国際線では、ANAやJALも運賃の引き下げ競争に巻き込まれている。
 ANAの伊東信一郎社長は15日、ミャンマー線の就航記念式典で「(現在は週3便だが)近いうちにもっと大きな航空機で毎日就航を目指したい」と述べた。成長市場への布石か、勇み足の拡大戦略か――。38席で始まったミャンマー線の成否が、ANA全体の行方を占う。
(清水崇史)