浴室で転倒 気をつけて
高齢になってから病気やケガによって寝たきりの状態になると、認知症になりやすいことがわかっている。寝たきりになる原因で最も多いのが転倒である。
ちょっとした段差でつまずいて転んだり、尻もちをついたりして骨折するとやっかいだ。高齢者は骨が弱くなっており、長期間寝たきりになりがちだ。あるいは、一度ケガをすると転倒が怖いからと家に引きこもりがちになってしまう。こうしたことが認知症のきっかけになるほか、症状を悪化させる原因にもなる。
転倒する理由のひとつは運動不足だとされる。そこで医師は転倒予防体操などを薦める。この体操には、日常的な運動不足を補うためのメニューが工夫されている。
加齢による筋肉の衰えも転倒の大きな要因といわれる。こちらが運動不足よりも問題だという専門家もいる。定年後も再雇用する企業が増えているが、高齢者が多い職場では転倒防止対策が大きな課題となる。
『リスクのモノサシ』(NHKブックス)という本を読んでいたら、興味深いことが書いてあった。著者の中谷内一也さんは同志社大学教授で、リスク心理学などを研究している。
中谷内さんはこの本で「入浴のリスク」を取り上げている。少し古いデータだが、2004年の人口10万人当たりの死亡者数を比べてみたら、入浴はリスクが高いことがわかったという。
がんの死者は250人と圧倒的に多いが、「入浴中に水死」は同2.6人と、火事の同1.7人や風水害の同0.1人を上回った。65歳以上の高齢者に限ると、同9.9人に膨らみ、全年齢でみた場合の交通事故の年間死亡者数の9人を超えた。
風呂では、片足でまたいで浴槽に入る。浴室の床は滑りやすいから、片足立ちだと転倒しやすい。水死はしなくても、固い床で骨折して歩けなくなることは多いだろう。
交通事故はさまざまな努力によって減る傾向にある。高齢化が進む現代では、浴室での転倒や浴槽での水死がもっとクローズアップされてもよいのではないか。私たちは家族が出かけるとき「クルマ(交通事故)に気をつけて」という。今後は「お風呂場では気をつけて」と変わることも予想される。
(江戸川大学特任教授 中村雅美)
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